第35話 監査で無双する

「え、え~こちらが第二階層になります」


「んなっ!?

 第二階層で地脈量がすでに1,000GP/hだと!?」


 監査用の地脈測定器を覗き込み、驚愕の叫びをあげる萌香。


「……ふん」


 対して、銅輔は面白くなさそうな表情を浮かべている。


「そして、こちらが倉稲村ダンジョン名物”千畳敷”になりますっ!」


「いやいや理沙ねぇ、観光案内じゃないんだから」


「馬鹿な! これほどの規模の地脈生成物がこんな浅い階層で見られるなんて!?」


「「な、なんかウケてる!?」」


 屋敷内のダンジョンを隅々まで監査するという事で、俺たちは萌香と銅輔をダンジョン内に案内していた。

 この後、新規階層である第八階層の攻略も行う予定だ。


「変なことろはないよな?」


「そ、そうだな!

 協会に提出された資料でGランクダンジョンがSランク以上に進化したと読んだ時は信じられなかったが……本当なのだな」


「あ、ああ。

 コンのおかげでダンジョンが成長したみたいで、全貌はいまだ把握しきれていない」


「ふむ、神憑きダンジョンならありうるか」


 まあ、本当はSSS+ランクダンジョンなのだが。


「わらわが整えたのだ! 萌香おねえちゃん!」


 もふっ


「うわはあああっ!?」


 定期的にコンが抱き付き、萌香を興奮させている。


『ダンジョン協会の監査ですか……一度に全てを公表すると、関係各所の衝撃が大きすぎますから情報は小出しにしていたのですが。

 大丈夫、協会には私の方から働きかけておきます』


 ダンジョンに潜る前、美里さんに今回の監査のことを相談した。

 しっかりとダンジョン内部を見てもらいつつ、詳細な情報報告は美里さんに任せることになった。


 今回の監査は篤さんのごり押しで行われた突発的なもの。

 下手に篤さんに詳細な情報が伝われば、親族が所有しているダンジョンだからと無理やりダンジョンの接収を仕掛けてくることも考えられますとは美里さん談。


『その辺、しっかり対策しておきますね!!』


 とても頼もしい。


(そもそも俺が正式に相続したんだから、ちょっかい掛けられる謂れはないんだけど)


 ここで気になるのが銅輔の動きである。

 ダンジョンに入ってから、普段のやかましさが鳴りを潜めている。

 いったい何を考えているのか。



 ***  ***


(まずいぞまずいぞまずいぞおっ!!)


 冷静を装いながら、内心焦りまくっている銅輔。


 まだ監査を始めて30分ほどだが、それだけで圧倒的なポテンシャルを持つこのダンジョンの凄さが感じられる。


「ほらほら、もんすたーが出たぞ?」


「!? ゴブリンクラスとはいえ、一気に30体以上!

 しかも、見たことない種類のモンスターではないか!」


 なんといっても、モンスターの出現数が多い。

 地脈の動きが規格外に活発な証拠だ。


「にはは、小鬼じゃな!

 地獄の餓鬼を参考にした低級妖怪じゃが、無双できると探索者殿らに好評なのじゃ!」


「ふふ、ウチのダンジョンは可愛いコンのおかげで和風だぜ!」


「わ、和風!? そんなダンジョン聞いたことが……」


「ねえトージさん、倒しちゃっていいかな?」


「おう、萌香監査官様に見せてやれ」


「ほーい!」


「理沙は左前方、角付きの小鬼を狙え。

 群れのボスだから、そいつを倒せば統制が乱れる」


「了解ですっ!」


 だんっ


 理沙と呼ばれたセーラー服姿の少女が一気に群れを飛び越え、角付きのゴブリンに踵落としを見舞う。


 バゴッ


 ザワワッ


 一撃で地面に沈んだボスの姿を見て、浮足立つ周囲のゴブリンたち。


「礼奈は群れの外側、座標二三と七九の小鬼を二点射撃」


「ん、わかった。

 連撃弐式!」


 パンッ

 パンッ


 正確無比な銃撃がブレザー姿の少女から放たれる。


 ギャウウウウッ


 魔力の弾丸はゴブリンを貫き、倒れたゴブリンが群れの撤退を阻害する。


「よし、トドメだ!

 炎術四式!!」


 ズゴオオオオオオッ!


 炎の旋風がゴブリンたちを焼き尽くした。

 ほれぼれするほど鮮やかな戦い方だ。


「30体のゴブリンを、わずか90秒で!?

 しかも、その子たちは養成校に通っていない普通の学生だろう!」


「ああ、なんか適性が発現したからな。

 このダンジョンで鍛えてやった。

 級(レベル)も30を超えてるぞ?」


「なっ!? いつの間にお前、育成ができるようになった?」


「ふふ、俺だって無駄に底辺リーマンしてたわけじゃないぜ!」


「いや、その経歴は関係ないやろ」


「にはは、トージは昔からできるやつだったからのう!」


 楽しげに談笑する統二達。


(く、くそっ!)


 どう見ても、統二の実力は自分を大きく上回っている。

 それどころか、あのガキどもにさえ負けているだろう。


(まずいぞ)


 今のところ、ダンジョンに問題はない。

 それどころか、トージは憑神を得て探索者として大きくレベルアップしている。


(このままでは、ボクではなく)


 統二の奴が穴守家を代表する探索者になってしまう。


 そんなことが許せるものか。

 銅輔は、冒険着の内ポケットに忍ばせたある物を握りしめる。


 5年前の卒業考査で使った地脈操作機。

 グループ企業と組み、ひそかに改良を重ねてきた。

 この最新作の存在は、父上も知らない。


 統二と萌香に気付かれないよう、そっとスイッチを入れるのだった。

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