第32話 ほろ苦き卒業考査(前編)

「まさか、ワタシがお前たちと一緒の班とは!」


「けけっ、成績上位者と下位者を組み合わせることで、仲間をフォローする能力を確認するんやと。あきらめろや、モエちん!」


「モエちんっていうなあああああっ!」


 どがっ


 余計な一言を口走った雄二郎が、萌香の回し蹴りをくらって吹き飛ばされている。


「やれやれ」


 探索者養成校の卒業を控えた3月。

 俺たちは”卒業考査”に挑もうとしていた。


 目の前に口を開けているのは、考査会場となるDランクダンジョン。


(なんとか、ここで巻き返さないとな!)


 養成校に入学する前、高校三年生の秋の出来事を思い出す。


 じーちゃんの屋敷内のGランクダンジョンで突如発生した反転現象(リバース)

 ダンジョンで遊んでいた幼なじみの理沙と三奈を無我夢中で助けた時、俺は3メートル以上の壁を飛び越え、モンスターを体当たりで倒した。


『これは……素晴らしい探索者適正じゃぞ!』


 もしかして、という事でじーちゃんに探索者適正を測定してもらったところ、思いのほか高い適性が示された。


『さすがワシの孫、鼻が高いな!』


 じーちゃんは俺のあこがれだ。

 父さんがかなえられなかった夢、ダンジョン探索者になれるチャンスが巡ってきたのだ!


『篤の奴は少々独善的なところが目立つゆえ、次世代の穴守家の希望となるのは……トージ、お前じゃ!』


 じーちゃんの言葉はいささか過大評価な気もしたが、倉稲村の人々に見送られ、俺は全寮制の探索者養成校に入学した。


 順風満帆、探索者の夢へまっしぐら……というほど世間は甘くなく、

 全国から優秀な探索者の卵が集まった養成校では、授業についていくだけで精いっぱいだった。


(しかも……!)


 3か月に一度行われるダンジョン実習。

 最終成績に大きくかかわるソレで、俺は毎回ポカをやらかしていた。


 当日の朝、急に体調不良になったり(前日参加した食事会で変なもの食べたらしい)

 携帯が義務付けられている脱出アイテムを忘れて失格になったり(事前に3度も荷物をチェックしたのだが、なぜか無くなっていた)

 ダンジョンアプリのマッピング機能の不具合で道に迷ってタイムオーバーになったり(学校に調査を依頼したものの、原因不明と却下された)


(ぐぬぬ)


 おかげで俺の考査成績は最底辺。

 ギリギリ卒業はできるだろうが、まともなダンジョン企業に就職することは難しいだろう。


「だけど、この卒業考査でS評価を取れば……!」


 企業の面談で最重視されるのは卒業考査の成績らしいので、ここで頑張れば一発逆転も可能である。


「ま、今回はパーティ戦や。

 気負わずに行こうや」


 力む俺の肩をポンと叩く雄二郎。


「今のワイの成績じゃ探索者になるんは厳しいからな。

 今日は精一杯サポートすんで?」


「雄二郎……」


「くくっ、気にすんな!

 ワイは裏方企業に行くつもりやからな! お前さんの活躍を陰から支えるわ!」


 ダンジョン実技の成績は最底辺だが、技術系の成績はピカイチな雄二郎である。

 大手ダンジョン設備屋の内定をすでにもらっているそうだ。


「なるべく早く独立すんで! 目指すは世界一の設備屋や!」


「お前ならなれるよ」


「おう!」


 俺は座学も微妙なので、この卒業考査に掛けるしかない。


「まったく、お前は……優秀な適性を持つにもかかわらず、毎回ミスをして。

 たるんでるんじゃないか?」


「ちゃんと準備してるんだけどなぁ」


 モエちん……萌香は腕を組んでぷりぷりとお怒りである。


 ショートカットに切りそろえた金髪がそよ風にさらりと揺れる。

 青い制服風の冒険着に身を包み、一部の隙もなくびしりと立つ彼女の姿は純粋にきれいだな、と思う。

 ただその頭は俺の胸あたりまでしかなく、かわいいという印象が先に立つのだが。


「そ、それでだな!」


 ずずい、と探索用ザックを差し出してくる萌香。


「おおお、おっちょこちょいなお前のために、必要アイテムをまとめておいたぞ♡

 あ、ありがたく受け取るがよいっ♡!」


「おっ、サンキュー♪」


 なぜか頬を紅潮させながらまくしたてる萌香。

 彼女は成績優秀で、この卒業考査に首席卒業が掛かっている。


「ありがたく使わせてもらうな。ありがとう、萌香!」


 ぽんぽん


 自分の卒業のためにも必要な事とはいえ、底辺な俺のために時間を取ってくれたのである。うれしくなった俺は萌香の頭を優しく撫でる。


「ううう~~~~っ、子ども扱いするなぁ♡」


「おお、いい子いい子!」


「うぎいいいっ♡」


「お、おう……あんだけ好き好きオーラ飛ばしよるのに、相変わらず鈍いなトージ」


 なぜか雄二郎はドン引きしているが、そろそろ俺たちの番だ。

 ダンジョンに向かおう、そう言おうとしたとき、聞き覚えのある馬鹿笑いが俺たちの耳を打った。


「は~っはっはっはっは!!

 萌香さん! 首席の貴方がそんな底辺と組むことはないでしょう?

 今からでもパーティを変更しないかね?」


 きゃ~~~っ! 銅輔様、素敵!!


 取り巻きを引き連れて現れたのは、俺の従兄弟で同期。

 そして、俺に対する妨害工作容疑者筆頭の穴守 銅輔だった。

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