第31話 とりあえず自己紹介をしよう

「さ、先ほどは、大変失礼した。

 改めて自己紹介させてくれ。

 ワタシの名前は大宮 萌香・ヘンダーソン」


 理沙礼奈姉妹、コン、村人たちに向けて、ぴょこんと礼儀正しくお辞儀をする萌香。


「そこの馬鹿二人……こほん。

 穴守 統二と川上 雄二郎とは探索者養成校の同期で、今はダンジョン協会の外局に所属している。統二の叔父である穴守 篤氏からの依頼で、統二が相続したダンジョンの監査に来た次第だ」


「また篤さんかよ……」


 何でいきなりモエちん……萌香が倉稲村に来たのかこれで合点がいった。

 篤さんはダンジョンを使った村おこしで成果を出し始めている俺が気に入らないのだろう。


 萌香は正義感が強く、融通の利かないまじめな性格である。

 一緒に派遣されたのが何かにつけて俺を敵視していた息子の銅輔という人選からして、完全に嫌がらせである。


「こ、これはご丁寧にっ!

 わたしはトージさんの幼馴染で、笠間 理沙って言います!」


 全力で礼を返す理沙。

 そのはずみで、豊かな胸が揺れる。


(ぐうっ!?)


 気のせいか、萌香がダメージを受けてる気がする。

 まあ、あいつは見た目通りの幼児体型……(ギンッ)……物凄い殺気が飛んできたので思考を止める。

 命大事に、である。


「理沙の妹の礼奈です……って、トージにぃ、このお姉さんすっごい可愛いんだけど!」


(ぐあっ!?)


「……礼奈、萌香が気にしてることを言ってやるな。

 命がいくつあっても足りないぞ?」


「う”っ、気を付ける……」


 失言したことに気付いたのか、そそくさと理沙の背中に隠れる礼奈。

 いい判断だ。萌香はナイスバディ相手だと攻撃が鈍る。


「統二お前……先ほどから失礼なことばかり考えてないか?」


「何のことだ?」


 コイツ、心が読めるのか?

 冷や汗をかきながらとぼけた態度をとる。


「最後は、わらわじゃな!」


 とててててっ、と萌香の前に走り出るコン。

 午前中はダンジョンのメンテナンスをしていたので、正装(?)の巫女服姿だ。


「か、可愛いっ!?」


 自分がカワイイと言われるのは嫌なくせに可愛いものに目がない萌香である。

 彼女の目はコンに釘づけだ。


「だんじょん付喪神、コン!

 わらわ達のだんじょんを検分するそうじゃが、お天道様に誓って狼藉は働いておらぬぞ?」


「ぐうっ!?」


 ぴこぴこと動く狐耳。

 きらきらと光を放つ純真な瞳に見つめられ、後ずさりする萌香。


「よろしくの、萌香♡

 とうっ!」


 もふっ♪


「ぐぼっ!?」


 コンに抱きつかれて悶える萌香をなんとも言えない表情で見つめる理沙。

 ひそひそと礼奈と何事か話し合っている。


「ねえ礼奈ちゃん」


「……なに理沙ねぇ」


「萌香さんってトージさんの同期で、探索者養成校の首席。

 クールな美人さんでかっこよくて、それなのに小っちゃくてかわいい物好き。

 ……属性山盛りの、めちゃめちゃ強力なライバル出現じゃない?」


「大丈夫、理沙ねぇも負けてないわよ」


「そ、そう?」


「成績は赤点ぎりぎりのドジっ子。無駄に背が大きくてサイズが合わないからジャージばかり着てる残念女子。料理下手で、胸と腹だけは偏差値80でいろいろなところがゆるふわの癒し系女子高生よ!!」


「ぶはっ、悪口しか言ってねぇ!?」


「癒し系女子って言ったじゃん!」


「それって他に褒めることがない人に使う言葉だよ!

 ていうか料理下手なのは礼奈ちゃんも一緒! 礼奈ちゃんもトレンド15年遅れ系女子中学生のくせに!」


「なにおう!」


 どたばた、どたばた


「そ、それが(胸と身長)一番欲しいものなのだっ……(がくり)」


 コンのもふもふアタックに加え、理沙礼奈の無自覚攻撃。これは効いている。

 大ダメージをくらってこのまま撤退してくれないかな~。

 そう期待していたのだが。


 どがあっ!!


「ボク、ふっかあああああつっ!!」


 田んぼに突っ込んで肥やしになっていたはずの銅輔が土をまき散らしながら再起動する。


「ちっ」


 この従兄弟は昔から耐久力だけは優秀なのだ。

 萌香の蹴りをくらって……しぶとい奴である。


「今日こそ、お前をコテンパンに叩きのめしてくれる!

 忘れたとは言わせんぞ!

 そう! あの卒業考査の日だっ!」


「お、思いっきり私怨やんけ……」


「いや、監査任務じゃねーのかよ」


「くっ……」


 あきれる俺と雄二郎に対し、苦々しげな表情を浮かべる萌香。


(卒業考査か……)


 俺の脳内に、あの日の光景がよみがえってきた。

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