第30話 ちっちゃな監査人襲来
「はっはっは、統二! 不正の証拠は既に挙がっているのだぁ!
潔く罪を認めるがいい!!」
「は、はぁ?」
センス皆無な赤スーツを着て、腰に手を当て爆笑しているのは俺の従兄弟である穴守 銅輔(あなもり どうすけ)。
叔父である篤さんの息子で、探索者養成校の同期だった。
「七光りの銅吉(どうきち)が、こんな所に何の用や?」
騒ぎを聞いて、ビジターセンターの拡張工事を指揮していた雄二郎もやって来た。
ちなみに雄二郎も彼の同期だ。
「はっはっはっ! 底辺赤点コンビは社会人になっても仲良く底辺を這いまわっているようだな! 探索者養成校を優秀な成績で卒業し、父上の関連会社で名誉取締役として大活躍中のボクとの立場の差……いっそ哀れになるくらいだ!!
はっはっはっは!!」
「お、おう」
「名誉取締役なんて、ただの張りぼてやんけ……」
最新の探索者ランキングで、銅輔は欄外のEランク。
ダンジョン探索も階層クリアできない失敗が多く、父親の威光で何とか仕事を回してもらっている。
雄二郎がスマホに転送してくれた資料にそう書いてあった。
そんな従兄弟が、今さら俺に何の用だろう?
「はっはっはっは!
今回は父上からダンジョン協会外局に依頼した、正式な監査任務だぞ!
最近調子に乗っている貴様を叩きのめし、最高の成果で父上に認めてもらうのだぁ!」
「うげっ、相変わらずのファザコンかい……」
養成校時代は俺たちと大して変わらない成果しか出さないにもかかわらず、なぜか教官からの評価がいいのでパパに下駄を履かせてもらってるんだろうと噂したものだ。
「監査任務?」
ダンジョン協会が私有ダンジョンに対して不正利用が無いか監査していると聞いた事はあるが、俺のダンジョンが対象になったということか?
協会に相続の書類は提出しているし、ダンジョンの情報は美里さんを通じて更新してもらっている。
「しらばっくれるでない統二!!
父上が疑っているのが何よりの証拠!!
大人しくお縄につけ!」
「えぇ……」
「証拠ないんかい……」
あまりに乱暴な言い草にうんざりとしていると、体格だけは立派な銅輔の後ろから、小柄な人影が歩み出てくる。
「依頼主殿? 実地監査をする前に有罪と決めつけるのはいささか早計では?」
「優秀なボクにそんなものは必要ない! はーっはっはっはっは!!
はーっはっはっはっは!!」
「……うるさい」
げしっ!
「ぐべっ!?」
無造作に銅輔を蹴り飛ばす若い女性。
10メートルほど吹っ飛んだ銅輔は田んぼに落ち、気絶して動かなくなる。
「!? お前は!」
「ひ、久しぶりだなトージ。てっきり……」
「「モエちん!!」」
思いもよらない人物の登場に、俺と雄二郎の声が綺麗にハモった。
「そ、その名で呼ぶなあああああああああっ♡」
やけにかわいい叫び声が、昼下がりの倉稲村に響き渡るのだった。
*** ***
「ふう~っ、ふう~っ、ふう~っ♡」
肩で息をしているこの女性の名前は大宮 萌香・ヘンダーソン(おおみや もえかヘンダーソン)。
歳は俺と雄二郎の二つ下だが探索者養成校では同期で、俺たちのクラスの委員長を務めていた。
「久しぶりやなモエちん委員長。
お前さんは変わらへんな、いろんな意味で!」
「その名で呼ぶなと言っているだろう!
って、それはどういう意味だ!?」
さっそく雄二郎に突っかかり、ヤツの喉を締めあげる萌香。
だが、彼女の頭の位置は身長180㎝の雄二郎の胸くらいしかない。
「にはは、めんこいおなごじゃのう!」
「あいつは23歳だぞ?」
「な、なんと!? 面妖にもほどがないか!」
萌香は金髪、緑眼で美人系のクールビューティなのだが、身長が小学生並みの140㎝前後しかない。クラス委員の腕章を付けて仁王立ちする姿がとても愛らしかったので、俺と雄二郎は親しみを込めて「モエちん」と呼んでいたのだ。
「まあまあモエちん、そう興奮するなよ」
このままでは雄二郎が締め落とされてしまいそうなので、仲裁に入ることにしよう。
昔と同じように、彼女の頭をなでなでしてやることにする。
こうすると、いつも頭から蒸気を出して止まるのだ。
萌香は興奮しやすいタチだからな。
「ほら、綺麗な顔が台無しだぞ? よしよし」
なでなで
「っっ~っ!?」
ポン、という音がしそうなほど萌香の顔が真っ赤になる。
「んっ?」
「おっ、お前はいつもいつも~♡♡!!」
ドガバキッ!!
「ぐはっ!?」
照れ隠しなのか、全力のタックルが俺の腹に直撃した。
猛烈な衝撃が全身を襲い、豪快に吹き飛ばされてしまう。
し、しまった!
萌香は探索者養成校首席で、レベル150を超える若手トップクラスの探索者。
ダンジョン協会の外局勤務というエリートコースを歩み、将来を嘱望される俊英。
いつまでもからかい甲斐のあるちっちゃな委員長じゃなかったのだ……。
探索者女子、三日会わざれば刮目して見よ。
俺は薄れゆく意識の片隅で、その言葉をかみしめていた。
「ふお? な、なにこれ?」
「また変な人が……トージにぃの知り合いってヤバくない?」
騒ぎを聞いて駆けつけてきた笠間姉妹がぽつりとつぶやくのだった。
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