第23話 反転現象(リバース)を止めろ
「これは……いったい何事です?」
古民家に併設された探索者カフェ。
ユニ子ファンが見つめる大型モニターには、モンスターが再生していく様子が映し出されている。
「うわ!? 倒したボスモンスターが復活するなんて、凄い演出だぜ!!」
「なるほど、ライブを終えた直後のどんでん返しってわけね? ドキドキするわ!」
「でもさ、ボスモンスターが復活するなんてありえんのか? 聞いたことないんだけど……」
「そりゃ、美里さんが準備した特別なダンジョンだろ? これくらいはやってくるって!」
「そうね、なんといっても神憑きダンジョンだもん! コンちゃん凄い!」
幸い、ファンの皆さんは演出だと思っているようだ。
一度地脈の結晶である資源コインに変わったモンスターが再生するなんてありえない事態だ。
手元の端末をスタッフカメラに切り替えると驚きの表情を浮かべるトージさんと、調子の悪そうなコンちゃんの姿が映った。
「!!」
何かただならぬことが起きている。
そう判断した美里は、カフェの店内にいるファンたちに声をかける。
「皆様すみません。
どうやら配信機材にトラブルが発生したようでして。
確認してきますので、この場所を離れないようにお願いします!」
それだけ言うと店の外に飛び出し、扉に”護符”をぺたりと貼り付ける。
「これでよし」
よほどのことが起きない限り、室内の人間は安全である。
ヴウウウウンッ
その時、耳障りな振動と共におぼろげな光が穴守家の屋敷の方角から立ち上る。
「これはまさか……反転現象(リバース)?」
不吉な薄紫色の光に、美里は心当たりがあった。
*** ***
「くっ……ウソでしょ?」
理沙が対峙しているのは、巨大なクマ型のモンスター。
だらりと開いた口からこぼれた唾液は、床に落ちるとじゅうという不快な音と共に煙を立てる。
(もしかしたら、毒をもってるかも!)
トージさんから教えてもらったモンスターの中に、こんなのがいた気がする。
様々な状態異常を引き起こす”毒”。
魔法を使えない自分には厳しい相手だ。
「ふぅ、ふぅ……理沙、大丈夫?」
「うん、任せて!」
地面に座り込み、息を荒げている三奈ちゃん。
自分も心なしか体が重い。
ヴヴヴヴッ……
鈍い音をさせながら、薄紫の光を放つダンジョンの壁。
(同じだ……あの時と!)
7年前、倉稲村を襲った反転現象(リバース)。
トージさんのお爺さんである鉄郎さんの説明では、地脈の力が反転して周囲の生き物の生気を吸い取ってしまうという。
農作物が枯れたり、体調が悪くなる人が出たりと様々な悪影響があるそうだ。
……詳しい内容を理解できているわけじゃないけど、7年前と同じ現象が発生し自分たちがピンチに陥っているのは確かだ。
「で、でもっ!」
あの時とは違う。
自分は無力な小学生ではないのだ。
グオオオオオンッ!
バキッ!
丸太のような腕から放たれるクマ型モンスターの一撃を、両手に装備した手甲でかろうじて受ける。
「くうっ!?」
一撃で生命力を3分の1ほど削られた。
このモンスター、強い!
(三奈ちゃん!)
反転現象(リバース)の影響をもろに受けた三奈は、その場から動けないようだ。
「たあっ!」
バゴッ!
牽制の蹴りを放つ理沙。
彼女たちが無事にこの場を切り抜けられるかは、まだ分からなかった。
*** ***
「電撃術参式!!」
バヂイッ!!
俺の右手から放たれた電撃が、赤猫又を丸焦げにする。
「ユニ子さん、これはおそらく反転現象(リバース)です! それも桁違いの規模の! いったん地上に戻りましょう!」
外には理沙や三奈、美里さんやファンの人たちがいる。
ダンジョンにはセーフティゲートを取り付けることが義務付けられており、モンスターが外にあふれる危険はまずないが、万一という事もある。
「ん、わかった!
私が道を切り開くから、トージ君はコンちゃんを見てあげて。
礼奈ちゃん、支援魔法よろしく」
「りょ、了解です!」
アイドルモードから、一瞬でベテラン探索者の顔に変わるユニ子さん。
「う、うう……」
コンの体温はどんどん上昇しており、苦しそうにうめくばかりだ。
ダンジョン内に渦巻く異常な地脈のエネルギーが、悪影響を及ぼしているのかもしれない。
美里さんは憑神の事にも詳しい。
早く地上に戻って彼女に診てもらわなければ。
「いくよっ!
フレア・バーストッ!」
ズドオオオオオオオンッ!
ユニ子さんの極大魔法が猫又数体をまとめて吹き飛ばす。
「二人とも、こっち!」
俺たちはユニ子さんの先導に従い、地上へ向かうのだった。
*** ***
オオオオオンッ!
バキッ!
格闘術を駆使し、クマ型モンスターの攻撃をしのぐ理沙。
「ううっ、まずいよぉ」
三奈をかばいながら戦っているが、じょじょにフロアの奥へと追い詰められている。
「理沙! アナタだけでも逃げて!」
「そんなこと、できるわけないっ!」
親友を見捨てて自分だけ助かる選択肢なんて、選べるわけがなかった。
(なんとか、わたしの必殺技で)
じりじりと体力を削られ続けている。このままでは戦闘不能になってしまうだろう。
イチかバチか、モンスターの足を必殺技で攻撃して動けなくする。
今の体力だと、放てるのは一度だけ。
慎重にタイミングを計る理沙。
こつん
「……お?」
じりじりと下がっていたら、足元の出っ張りに躓いた。
思わず視線を向けると、そこにあったのは地面からにょきりと生えているシイタケのような物体。金属製で、何本ものコードが地面に突き刺さっている。
なにこれ?
邪魔だな……!
こつん
思わずソイツを蹴った瞬間、強烈な不快感が理沙を襲う。
どくんっ
「うっ!?」
眩暈がして倒れ込みそうになる。
もしかして、この変な物体は……。
「理沙!?」
「……え?」
足元を気にするあまり、致命的な隙が生まれていた。
グオオオオオオオンッ!
大きな口を開け、こちらに飛び掛かろうとするクマ型モンスター。
このままじゃ、自分は!
(トージおにいちゃん!)
思わず、目を閉じてしまう。
*** ***
「理沙!?」
ようやく第一階層まで戻ってきた俺たち。
だが、そこで俺が見たのはクマ型モンスターと戦う理沙の姿だった。
「……トージ、あれを……」
その時、腕の中のコンが弱弱しく呻き、理沙の足元を指さす。
「なんだ?」
彼女の足元にあったのは、金属製のキノコのような物体。
ブウウウンッ
低い音を響かせながらわずかに振動している。
「……あれが、わらわの、だんじょんを……」
「!!」
あのおかしな金属キノコが、この現象を引き起こしている?
コンの言いたいことを悟った俺は、とっさに電撃魔法を発動させる。
理沙と対峙しているクマ型モンスターも倒さなくてはならない。
「理沙! そこを動くなよ!」
「!? トージさんっ!」
ぱっと笑顔になる理沙。
(理沙に当てないよう、慎重に狙って……!)
「電撃術参式!!」
ヴィイイイイイインッ!
効果範囲を絞った電撃が、背中からクマ型モンスターを貫き、理沙の足元にあった金属キノコを吹き飛ばす。
パリイイイイインッ
どどどどどどっ
金属キノコが砕け散ると同時に、地面が揺れ始める。
「な、なんだっ!?」
ぶわっ!
地面から黄金色の光が立ち上る。
まさか、地脈の力?
ヴンッ
その時、胸元のホルダーに差したままだったスマホのダンジョンアプリが起動し、空中に文字を投影する。
『規定値以上の地脈励起を確認……ダンジョンがランクアップしました』
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