第22話 カリスマアイドルのダンジョン探索配信を手伝おう

 === 時間は少しさかのぼり、うららかな日差しが差し込む穴守家のダンジョン前


「は~いっ! ときめきダンジョンアイドル☆彡 ユニ子だよ~っ!」


 ツインテールにあしらわれた宝石が、日差しを反射してきらりと光を放つ。


「うわぁ……さすがユニ子、めっちゃキマってるじゃん!」


 礼奈の言う通り、そよ風にたなびくツインテールにウインクのタイミング、鍛え上げられた手足が一番キレイに映えるだろう画角まで。

 計算しつくされたユニ子の動きに、思わず感心してしまう。


「今日は~♪ カワイイ憑神ちゃんが準備してくれたダンジョンを、頼れる仲間と一緒に探索しちゃいま~すっ!」


「はいっ♪」


 ブーン


 ユニ子の合図とともに、ドローンカメラが俺たちの方を向く。


(おっと!?)


 急に振られ、思わず反応が遅れる。


「にはは!

 このだんじょんの付喪神、コンじゃ!

 丹精込めて整えたゆえ、かりすまあいどるの妙技をみな楽しむがよいぞ!

 ……へぷしっ」


「こ、コンの主人でこのダンジョンのオーナーである穴守統二です。よろしく」


「笠間礼奈だしっ! おっちょこちょいなトージにぃを手伝ってます……モクシィのフォローよろ!」


 堂々としたコンの名乗りと対照的に、ぎこちない挨拶をする俺と礼奈。

 ……俺はおっちょこちょいじゃないぞ?


 >ははっ、初々しくてかわいい仲間だね!

 >今どきモクシィww可愛いんだけど!

 >オレ、こないだのデビュー配信見たわ

 >新人なのに超強いんだっけ?

 >レベルもだけど戦い方が独特なんだよな

 >コンちゃんのくしゃみかわゆす。ユニ子とポーズとってよ

 >竹駒プロのエースと期待の新人の競演か~さすが美里たんプロデュース

 >このトージって探索者の集団バトル、凄かったな


 ドローンカメラが投影したホログラムに配信コメントが表示される。

 よかった、おおむね好意的な反応である。


「は~い☆彡 みんなありがと~。

 なんとこのダンジョンの憑神のコンちゃん、ユニ子のリクエストに応えて、カワイイ系モンスターを揃えてくれたんだって!

 凄いね!

 厚揚げが大好物らしいから、ユニコスタのみんな”ギフト”よろしくね♪」


「にはは! 最近のわらわは、かつかれーがまいぶーむじゃ!

 よかったらそちらも頼むぞ?」


 物怖じしないコンは、ぴょんとユニ子の肩に飛び乗ると、ぴこぴこと狐耳と尻尾を振ってアピール。


 >コンちゃん可愛いいいいいいいっ!!

 >のじゃロリ狐っ子とユニ子のコラボレーション……最強か?

 >早速ギフトぽちった!


 盛り上がるコメント欄。

 ユニコスタとはユニ子さんのファンの総称で、ホントかどうか知らないが全世界に500万人以上いるらしい。


「コンち、すげぇ」


「ふ、俺の娘だからな!」


「なんでトージにぃが得意げなのよ?」


 すっかりユニ子さんと仲良くなり、カメラにアピールするコン。

 最初は村人たちを怖がっていたのに、成長したものである!


 後日、トラック一台分の厚揚げと冷凍とんかつが届き、驚愕することになるのだがそれはまた別の話である。



 ***  ***


「行くよ☆ ユニ子フラッシュ!」


 ずどーん!!


 マジックロッド代わりのマイクから放たれた閃光魔法が、大型の猫又を一撃で吹き飛ばす。


『ユニ子さん、8時の方向に”すねこすり”2体、奥の通路から赤猫又1体来ます。

 多分そいつが、このフロアのボスです!』


 戦場の状況を把握し、ユニ子さんに伝える。

 俺が伝えた情報は、彼女のヘッドセットを通じて網膜に投影される仕組みだ。


「あたしも!

 ”敏捷力強化壱式”!」


 ヴンッ


 理沙も負けじと支援魔法を発動させる。


「ふたりとも、ありがと~っ♪」


 シャウッ!!


 背後から飛び掛かってきた猫型モンスター、すねこすりの攻撃をひらりとかわすユニ子さん。


「ふふっ、おいたは駄目だゾ?」


 ばきいんっ


 最低限のモーションから放たれた氷雪魔法が、すねこすりを氷漬けにする。


 ギャオンッ!


「おっと!」


 もう一体のすねこすりの時間差攻撃に動じることもなく、ひらりとモンスターの背に乗ると極大魔法を発動させる。


「これで、おわりだよっ!!」


 ズッドオオオオオオオオン!!


 巨大な爆発が2体のすねこすりを木っ端みじんに吹き飛ばした。


『!! ユニ子さん、赤猫又の攻撃がきます!!』


「おっけ♪」


 ゴオオオッ!


 赤猫又の得意技は、鉄をも溶かす炎のブレス。

 ユニ子さんがすねこすりに集中するタイミングを計っていたようだ。


「あまいっ!」


 ブウウン


 ユニ子さんの右手のひらに、青白い障壁が生まれる。


(ここだ!)


 フィニッシュが近いと判断した俺は、ダンジョンスキルの臨時ブーストを行う。

 資源コインは美里さんが経費として支給してくれるので使い放題だぜ!


 =======

  ・攻撃力アップ(+3%) +15%:資源コイン100を消費します

  ・魔力アップ(+3%) +15%:資源コイン100を消費します

 =======


 バンッ…ギュウウウウウンッ


「これっ!? 5倍以上のゲインがある!?」


 炎のブレスを受け止めたユニ子さんは、自身の魔力で増幅し、赤猫又に向けて撃ち返した。

 ……なんか微妙にセリフが古かったのは気のせいか?


 ドオオオオオオオオオンッ!!


 ビームと化した炎は赤猫又の巨体を貫き……。


「いえいっ! クリア!」


 ボスモンスターを倒し、無事ユニ子さんのダンジョン探索は終了したのだった。



 ***  ***


『七色の魔法が♪ ハートを探索しちゃうの☆♪

 ときめきダンジョンアイドル~♪ アナタの街へ~♪』


 マイクを手に、熱唱するユニ子さん。

 どうやらダンジョンクリア後には、ウィニングライブを行うのがお約束だそうだ。


 >今日もかっこかわいかったよ、ユニ子!

 >いつもに増して魔法のキレがすごくなかった?

 >猫モンスターの攻撃をノールックでかわしたところなんか鳥肌立ったよ

 >あのJCちゃんの支援魔法もよかった!

 >トージって探索者がモンスターの動きを把握してユニ子に伝えてたらしい

 >まじ? そんなことできんの!?

 >もしかして仕込み?

 >モンスターの動きを外から制御できるわけないだろ

 >オレ、ダンジョンチェッカーで状況をモニタしてたんだけどさ、最後の魔法を使った時、青スキルの効果が+15%されてたぞ

 >マジかよ!? ほぼチートやんけ……

 >このダンジョンって狩り場として潜れるんだっけ?

 >竹駒プロ公式サイトから予約可能らしい

 >1泊2日で15万? やすっ!


 ものすごい量のコメントがホログラム内にあふれる。

 どうやら視聴者さんにも満足してもらえたようだ。


「あ! あたしについて触れられてるじゃん!

 モクシィでユニ子の配信に参加したって報告しちゃお~♪」


「にはは! なかなか盛り上がったの!

 ……へぷしっ、ぷしっ」


「コン、大丈夫か?」


「うみゅ~」


 配信は盛り上がったが、コンのくしゃみの回数が増えているのが心配だ。


「先に引き上げようか……ん?」


 ぐしぐしと鼻を拭くコンを抱き上げた俺は、僅かな異変に気付く。


 じわぁ


 コンの体温がいつもより高い?

 それに、何か背中がぞわぞわするような波動を感じる。


「んん~、妙に身体が火照るの……ふわぁ」


『……えっ!?』


 コンが大きくあくびをした瞬間、何かに驚いたようなユニ子さんの声が聞こえた。


「なんだ?」


 何事かと顔を上げると。


 ずももももももっ


「なっ!?」


 倒したはずのモンスターが落とした資源コインが。

 逆再生したようにモンスターの姿に戻っていく。


 シャアアアアアアッ!!


 赤猫又の叫びが、ダンジョン内にこだまするのだった。

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