第20話 理沙と三奈と七年前の事件
「なるほどね~、理沙と礼奈も探索者になって。
トージくんと一緒に配信もしてるのか」
「そうなの!
そしたらバズった?らしくてたくさんのお客さんが村に来てくれてね!」
「それで剛おじさんから村に戻ってこないかとパパに打診があったわけね」
「うんうん!
トージさんは倉稲を日本の首都にするぞ! だって!」
「あはは、それは流石に無茶すぎ~」
理沙と三奈は連れ立って村のメイン通りを歩く。
メイン通りとはいえ、トージとコンが住む穴守家の屋敷に理沙たちや村人たちの家、そして学校があるだけの簡素な通りなのだが。
「そのために空き家を改築して民宿にしたわけね」
通りの外れに建っている5軒ほどの建物が見えてくる。
50年ほど前までは人が住んでいたらしいが、相続放棄され朽ちるに任せるままになっていた。
「おお~、すごいなぁ」
建物はきれいに改築され、煙突からは湯気が立ち上っている。
源泉かけ流しの内湯付きがセールスポイントの、倉稲村初のお宿だ。
「トージさんと美里さんの計画では、探索者かふぇも併設するんだって!」
「へえぇ~!」
竹駒美里に今日やってくるアイドル探索者のユニ子。
隣県で暮らしていた三奈ですら何度もテレビやネットで見たり聞いたりしたことのあるビッグネームだ。
「全部トージくんのおかげなんだね」
「そうなんだよ~!
トージさんがコンちゃんを目覚めさせてダンジョンをパワーアップしてくれてから、いい事ばかり!!」
ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる理沙。
相変わらずこの可愛い親友は大型犬だな。
そんな理沙の様子を見ながら、いたずらっぽい笑みを浮かべる三奈。
「じゃあさ、トージくんとはちょっとは進んだわけ?」
「へうっ!?」
三奈の爆弾発言に、思わずずっこける理沙なのだった。
*** ***
「あうう~、いやそのあの」
立ち止まり、顔を真っ赤にする理沙。
彼女にとって、いつも勉強を教えてくれる優しいお兄ちゃんは昔からあこがれだった。
「小学生時代とは違うんだしさ、今なら押したらいけるんじゃない?」
「い、いや~でもでも~」
昔から背の高い方ではあったのだが、この可愛い幼なじみは今やスタイル抜群の女子高生だ。
バスケの選手を思わせる長身に、すらりとした手足。
それでいて、ふにゃっとした愛らしい童顔。
「ふっふっふ。
既成事実を作ってしまうのだ、理沙よ!」
むぎゅっ
「ふひゃあ!?」
抱き付きごこちもリアクションも満点の親友。
何とか応援してあげたいと三奈は思っていた。
「……それに、命の恩人なんだよね、ウチらの」
「あっ」
理沙の脳裏に、7年前の出来事がよみがえる。
*** ***
7年前の初秋、倉稲地区。
「お、おい!? いったい何が起こった!」
ドドドドドッ
地区全体を揺らす、不快な振動。
「地震か?」
「いやまて、鉄さんちだ!」
穴守家の屋敷から、怪しげな紫の光が立ち上っている。
「みんな避難するんじゃ!
ダンジョンの反転現象(リバース)じゃ!」
屋敷の中から一人の老人と高校生くらいの少年が飛び出してきた。
穴守家当主で高名な探索者だった穴守 鉄郎と、孫の統二である。
「鉄さん! リバースって何だい!?」
「地脈の力が、マイナスになる恐るべき現象じゃ」
村人たちを高台に誘導しながら鉄郎が説明する。
「ダンジョンを通じて地脈の力が汲み上げられ、周囲に恵みをもたらす」
穴守家の屋敷内にある古いダンジョンですら、周囲の農地の収穫を少しだけ増やす効果があるのだ。
「じゃがごくまれに、その力が反転してしまうことがある」
ヴンッ
屋敷内のダンジョンを中心に、薄紫色の魔方陣が広がる。
「お、おい! 畑が!」
魔方陣に触れた作物が、見る見るうちに萎びていく。
ずずんっ
それだけでなく、あぜ道に自生していた松の木が、鈍い音と共に根元から折れた。
「ひいっ!?」
「大丈夫! あの規模ではここまでは来んし、家畜や人体に大きな影響はない」
おびえる村人たちをなだめる鉄郎。
「なぜじゃ……屋敷内のダンジョンは”枯れた”状態。
封印が解かれるとしても、まだ先であるのに!」
反転現象(リバース)の起きる原因はまだ詳しくは解明されていないが、一説には地脈の力を一度に使いすぎた時に起こるという。
他には地中奥深くで発生した地震が影響するという研究報告もあり、鉄郎すらよく分かっていないのが実情だ。
「じゃが!」
それが、一階層しかなくモンスターも出ない、ほぼ休止状態のダンジョンで発生するはずがない。
”盟約”発動の時期は、まだ当分先であるはずだ。
「まてよ?」
そういえば、お盆に珍しく帰省してきた篤が”枯れた”ダンジョンの再活性化を研究していると言っておったが……。
データを取りたいと屋敷内のダンジョンにも入っておったような。
「おい! 理沙のヤツはどうした!」
沈みかけた鉄郎の思考を、剛の悲鳴が遮る。
「三奈もいないわ!」
「確かあいつら、鉄さんちで遊ぶって……」
「いかん!」
いくらあの規模の反転現象(リバース)とはいえ、子供が近くにいては危険である。
「くっ……!」
助けに行かねば!
腰を浮かせかけた鉄郎より早く、屋敷に突進していく一人の少年。
「統二!?」
鉄郎の孫である、高校三年生の統二だった。
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