第19話 ダンジョンの準備をしよう

「ははぁ、トージくんが遺産相続で村に戻ってきて、ダンジョン探索者を始めたんだ」


「そうなんだよ!

トージさんのすっごいスキルで村につながるトンネルが出来て!

お父さんの果樹園も収穫がすっごく増えて、村に観光客さんがたくさんやってきて!」


「とにかくトージさんのおかげて凄く凄いんだから!」


興奮のままにまくしたてる理沙。


「あはは! 理沙、語彙力~」


「ふおぁ!?」


三奈は理沙より身長は小さいが、しっかり者で学校の成績もよい。

同い年なのに彼女の姉みたいである。


「トージさんっ! 本当に三奈ちゃん一家が村に戻ってきてくれたよ!」


「おう! これからもガンガン倉稲を発展させるつもりだからな。

ほかの人たちも戻ってくるかもしれないぞ?」


「やた~!

倉稲最高! トージさん大好きっ!」


だきっ


「よしよし」


嬉しそうに飛びついてきた理沙の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。

相変わらず撫で心地のいい栗毛だぜ。


「ふむふむ、なるほど…………はぁ」


そんな俺たちの様子を見て、なぜかため息をつく三奈。


「ねえトージくん、ちょっと理沙を借りていい?

村のこと、案内してほしいんだけど?」


「ああ、問題ないぞ」


いたずらっぽい笑みを浮かべている三奈。

村には新しい施設もできたし、理沙にとっては久々の親友との再会だ。


今日の主役はユニ子だし、俺と礼奈がいれば大丈夫だろう。


「さんきゅ! それじゃ理沙、いこう!」


「わわっ」


三奈は理沙の手を引っ張り、どこかに行ってしまった。


「それじゃ、俺たちも行くか」


ユニ子のダンジョン探索配信に備え、ダンジョンを準備するのだ。


「ほ~い。

理沙ねぇもみなちも大変ねぇ」


「くくっ、はだんじょん付喪神の主人となった者の宿命じゃからな!」


「……いくらトージにぃにそのケがあったとはいえ、マジでそんな属性付くの?」


「例外なくな!」


「超やばぁ……」


「??」


二人は何を話しているのだろう?

俺は首をかしげながら、ダンジョンに向かうのだった。



***  ***


「今回のユニ子は”魅せ”配信らしいから、ボスとしてカワイイモンスターを希望だって」


俺とコンは第五階層まで下りてきていた。

先日温泉掘削の赤スキルを解放するためにクリアした階層で、フロアも広く配信に適している事からこの階層を選んだのだ。


「あ~、あたしもユニ子に同意!

ウーパールーパーとかどうよ? バズり間違いなし!」


「…………(古すぎだろ、礼奈)

準備できそうか、コン?」


「むむぅ、めんこいもんすたーとな!」


腕を組んで考え込むコン。

出現するモンスターをある程度操作できるのがコンの凄いところだ。

ダンジョンの難易度も自由自在。


配信に合わせたダンジョンをプロデュース出来るから、ユニ子のイベント開催地に選んだんです!

とは美里さんの言葉だ。


「”猫又”か”すねこすり”か……」


「それは可愛いのか?」


「どちらも猫の妖怪じゃな!」


「なるほど……」


猫型モンスターなら、ユニ子の希望に合うだろう。


「でもさトージにぃ、可愛すぎると倒しにくくなんない?」


「確かに……」


礼奈の指摘ももっともだ。


「それなら、こんな感じで」


手帳にさらさらとモンスターのイメージイラストを描く。


「ふむふむ……トージ、おぬし絵が下手じゃな!」

「これはひでぇ!」


「あれぇ!?」


どうやら俺の画伯っぷりはコンと礼奈のお眼鏡にかなわなかったようで。


「いくつか姿絵の候補を出すから、トージが選んでくれい!」


「分かった!」


俺は二人と一緒にダンジョンの準備を進めるのだった。



***  ***


「ひとまずこんなもんか……そろそろ昼だし、ウチに戻ろう」


1時間後、準備を終えた俺たちは昼飯を食うために地上に戻ることにした。


「うむ! して、今日の昼餉(ひるげ)はなんじゃ?」


「くくく……聞いて驚くなよ? カレーうどんだ!」


「かれー饂飩!?」


尻尾と狐耳を逆立てて驚くコン。

カワイイ。


先日の夕食で振舞ったカツカレーがコンはいたくお気に入りで、それならばカレーうどんも美味しく食べてくれるだろうという高度な作戦だ。


「魅惑の食物であるかれーと、饂飩を組み合わせてしまうとはの……」


「日本人の食への探求心は無限だぜ!」


「まさに悪魔的!?」


頬を紅潮させたコンを抱き上げてやる。


「楽しみじゃ!

……へぷしっ」


腕を振り上げて喜ぶと同時にかわいいくしゃみが出た。


「大丈夫か?」

「コンち、風邪?」


「うむむ、鼻がムズムズしただけじゃ」


ここ数日、コンはたびたびくしゃみをする。

特に熱もなく、食欲もいつも通りなので大丈夫だと思うのだが。


「ていうか付喪神様って風邪ひくのか?」

「まさか花粉症?」


「なんじゃそのおぞましい言霊は!?」


まだ10月とはいえ倉稲村の冬は早い。

コンはプライベートでも巫女服なのだが、暖かい私服も買った方がよさそうだな。


「よし、明日にでもコンの私服の買い出しに行くか!」


「さんせ~! あたしがとびっきりカワイイコーディネートを選んだげる!」


「……それはどうだろう?」


礼奈が選ぶと平成OLD STYLEになってしまう。

やはり娘には最新のかわいいコーデを着せてやりたいという親心が……。


「あ~!! 失礼ね!

トージにぃのおじさんミリコーデよりはましですぅ!」


「なにぃ!?」


「にはは! 大差ないのではないか?」


「「あれぇ!?」」


じゃれあいながら、地上に戻る俺たち。

午後からはいよいよユニ子のダンジョン探索配信が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る