第18話 村にアイドル探索者がやってくる

「こんにちはトージさん! 今日はよろしくお願いします!」


 笑顔の美里さんが、大型バスから降りてくる。

 今日はガイド役らしく地味目のダークスーツ姿だが、相変わらず美人さんである。


「こちらこそよろしくお願いします!

 団体客を紹介していただいて、ありがとうございます」


「いえいえ、これも倉稲村PR作戦の一環ですから!!

 それに、今回は竹駒プロダクション(ウチ)のイベント……むしろ利用させていただいた面もありますので!」


 相変わらずテンションの高い美里さん。

 本当にこの仕事が好きなんだな~。


「私はお客様を案内しますので、またあとで!」


 いったんバスの中に戻る美里さん。


「それでは、本日のお宿にご案内します!」


 美里さんの誘導に従い、バスからぞろぞろと観光客が下りてくる。

 全体的に若い人が多く、イラストが描かれたうちわやシャツを着ている人が目立つ。


「うわ~、凄いところだねココ」

「ユニ子とプライベートファンミなんて、楽しみ!」

「古民家を改造した宿には温泉もあるらしいよ!」


「にゅふふ、地下千尺五寸(約300メートル)から汲み上げた珠玉の炭酸泉、堪能するがよいぞ?」


 いつも通り、腰に手を当てて仁王立ちするコン。

 本格的に狩り場目当ての探索者を受け入れるにあたり、赤スキル:温泉掘削で掘ったのだ。


 もちろん、屋敷の風呂も温泉に変えた。

 源泉かけ流し、最高だぜ!


「あ♪ あの子配信で見たことある!」

「狐神様カワイイ!」

「隣にいるパパも、渋くてかっこいいじゃん」


「……パパ?」


 確かにコンは娘みたいなものだが、俺はまだ25歳ですよ、ぴちぴちですよ~!

 そうアピールする間もなく、観光客の集団は宿の方に向かってしまった。


「ファンミはこのあと14時からの予定ですので、まずはウェルカムデザートをお楽しみください!」


 美里さんが持っているのぼりには、

『コアファン限定! ユニ子と過ごす隠れ家的ダンジョン探索生配信!』

 の文字が描かれている。


「ま、マジでユニ子来るんだ……カリスマアイドルじゃん!

 ていうか、探索者もしてたのね」


 目をキラキラさせている礼奈。

 いくらブームが15年遅れの倉稲村とはいえ、その名は伝わっていたようだ。


「俺でも知ってるカリスマインフルエンサーで、竹駒プロダクションのトップエースだもんな」


 フォロワー300万人超。

 美里さんとは駆け出し時代からの付き合いらしい、日本トップクラスの探索者だ。


 ピンクに染めた髪をツインテールにしたきらっきらのアイドル。

 レベルは驚異の250越え、実年齢は絶対のヒ・ミ・ツ☆彡


「そんな人が、ウチのダンジョンに来てくれるなんて……」


 あのユニ子が、岐阜のド田舎ダンジョンに!?

 ポイッターのトレンドに彼女の名前と倉稲村の名前が載り、某掲示板では専用のスレッドがいくつも立ったらしい。


「うーむ、凄いな」


 トレンド効果なのか、サイトからどんどん予約が入っている。

 これは、早急にビジターセンターを整備する必要があるかもしれない。


「とりあえず今日は二人とも、手伝い頼むぞ!」


「もち! アイドルと共演とか、モクシィのフォロワー増やす大チャンスじゃん!!」


 今日は土曜日なので、理沙と礼奈にお手伝いを頼んでいる。

 ユニ子のパーティメンバーとして一緒にダンジョン探索をする予定なのだ。


「……ほえ~」


 やる気マックスな礼奈に比べ、どこか上の空な理沙。


「ははぁ。

 理沙ねぇは本当に”みなち”が帰ってくるのかが気になると」


 むにゅん!


 ぼけ~、と突っ立ている理沙の胸を揉む礼奈。


「……ってうええ!?

 礼奈ちゃん!!」


「にひひ~、またでっかくなったんじゃない?

 理沙ねぇは頭に栄養が行かずに胸と腹に行くのね!」


「むき~! 絶対に嫉妬だ!」

「なにおう!」


 どたばた

 どたばた


「まったく」


 三奈とは理沙の同級生で、以前はこの倉稲村に住んでいた。

 村に探索者や観光客が増え、人手がいるという事で剛さんが元倉稲村の住人を中心に声をかけてくれているのだが……。


 ブウウン


「おっ!」


 軽快なエンジン音を響かせ、数台の車がトンネルを通ってやってきた。


 引っ越し業者のトラックに、ワンボックスカー。


 がちゃっ


「相変わらず変わってない……って、凄く変わってる!?」


「!! 三奈ちゃん!」


 ワンボックスカーから降りてきた一組の家族。

 その中にショートカットの少女を見つけた理沙は、全力で彼女に向けてダッシュする。


「やっほ、理沙! 久しぶり!」


 理沙の一番の親友だった三船三奈(みふね みな)。

 増設される予定の宿やカフェを手伝うため、家族ぐるみで村に戻ってきてくれたのだ。


「おかえりなさいっ!」


 だきっ!


 満面の笑みを浮かべた理沙は、思いっきり三奈に抱きつくのだった。


 倉稲村の人口:30人→38人(三船家が帰郷)

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