第17話 初めてのお客さんをもてなそう
「どうぞ、こちらがダンジョンになります」
「おお~、雰囲気あるね!」
「和風ダンジョンか、珍しいな」
「楽しみ!」
数日後、初めてのお客さんとして3人組の探索者が倉稲村を訪れていた。
「ご贔屓どの、わらわが丹精込めて整えただんじょんじゃ!
存分に堪能するがよいぞ!」
すっかり定位置となった俺の肩の上でどや顔を浮かべるコン。
「ふふっ、ほんとにコンちゃん可愛い~♪」
「記念写真撮ってもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
「にはは! いますた、とやらに載せまくるがよいぞ!」
「それじゃ、撮りますよ~」
ぱしゃ
ぱしゃ
両手を振り上げ、元気いっぱいダブルピースをするコンと一緒に記念写真に納まる探索者たち。
「ありがと~!
カワイイ神様がいる狩り場だよってイマスタに載せちゃお~」
早速写真をSNSに上げる女性探索者。
彼らはそこそこ有名なダンジョン企業に所属する中堅探索者だ。
いい宣伝になってくれるだろう。
「それじゃ、ダンジョンに入りましょうか。
第一~第三階層は自由に探索していただいて構いません。
第四階層以降は弊社のプライベートスペースとなっていますので、立ち入りはご遠慮ください」
このダンジョンは俺が許可した人物しか立ち入ることができないので、自然と俺が案内係になっていた。
「ああ、わかったよ」
俺とコンは探索者たちを先導し、ダンジョンの中に入るのだった。
*** ***
「いやぁ、すごいな!」
「わずか1日で3レベルもアップするなんて!」
「変わったモンスターが多くて楽しかったわね!」
探索を終えた彼らを第一階層の入り口で出迎える。
「にはは、皆の衆お疲れ様なのじゃ!」
汗拭き用のタオルと、倉稲名物梨スイーツを手渡すコン。
「おっ、ありがとう!」
「この梨、うまっ!」
笠間のおばさんが作ってくれたスイーツを美味しそうに頬張る探索者たち。
こういったアフターケアがリピーターに繋がるんだぜ!(と、美里さんが言っていた)
「それしてもオーナーさん、このダンジョン凄いね!」
チームのリーダーらしき男性が、頬を紅潮させながら俺の肩をたたく。
「驚いたのは出現するモンスターの数さ!」
「おう、狩り放題だったもんな!」
「配信向けの特別仕様じゃなくて、普通でもこうだったのね!」
「ありがとうございます」
コンと相談し、”狩り場”としてならモンスターの数を増やした方が楽しいだろうという事で鬼(ゴブリン、オーク)や粘液(スライム)系の低級モンスターを中心に出現数を多くした。
「経験値獲得アップ(+5%)のおかげで十分に稼げたしね!」
「……別料金にはなりますが、経験値獲得アップ効果を上昇させることもできますよ?」
「はっはっは! 商売上手だねぇ!」
資源コインを使うことで、一時的に緑スキルの効果をブーストすることもできる。
こいつは課金要素として使えるかもしれない。
「ともかく凄く良かったよ! 知り合いの探索者連中にもおすすめさせてもらう」
「ありがとうございます!」
「ただいまウチはプレオープン期間でして、アンケートに答えていただければささやかな記念品を……」
彼らはこの後笠間夫妻がリフォームしてくれた古民家に宿泊する予定だ。
アンケートに答えてもらいながら、彼らを宿に案内するのだった。
*** ***
「ふむふむ、がっつりした食事ができる場所に、探索の合間に遊べるところか~」
宿の運営をしてくれている笠間夫妻に探索者たちを引き渡した後、見回りを兼ねてダンジョンに戻ってきた俺とコン。
彼らに書いてもらったアンケートを読みながら内部の状態をチェックする。
「それに託児所!? なるほど、ママさん探索者もいるからなー」
利用者アンケートは参考になる。
ネットからもいくつがご意見貰っているし、施設追加を検討したいな。
「だけど、廃屋の再利用には限界があるし……」
倉稲村探索者ビジターセンター、のような村のシンボルとなる大型ビルがあってもいいかもしれない。
「コン、赤スキルについて相談なんだけど。
……って、アレ?」
いつの間にか、コンの姿が見えなくなっている。
彼女はダンジョンの付喪神なので、いざというときにはその力でモンスターを消滅させたりダンジョンの外に脱出することができる。
「どこに行ったんだ?」
危険はまず無いとはいえ、コンはまだ小さな子供である。
道に迷ったら泣いちゃうかもしれない。
「スマホのGPS機能はオフになってないよな?」
第三階層までなら電波が通じる。
俺はスマホの位置情報を確認すると、その場所に急いだ。
*** ***
「なんじゃ? ムズムズするのう……」
おなかのあたりに感じた、なんとも言えない不快感。
その正体を探るべく、コンは第一階層の奥を目指していた。
「人の生世は最高に楽しいが、これだけは慣れぬ……ん?」
最奥の広間につながる回廊にある脇道。
視線の端を、きらりと光の反射がよぎった気がする。
「なんじゃ?」
地面からにょきりと生えているのはシイタケのような物体。
だが、キノコの類ではない。
なぜならそいつからは黒いこーどが何本も伸びており、地面に刺さっているからだ。
ブウウウンッ
しかも、わずかに振動しているそいつは”生きている”ようなのだ。
なんじゃろう?
自分が設置したものではない。
妙に気になったコンはそいつに近づこうとして……。
「お~い、コン!
どこ行ったんだ~? 大丈夫か~?」
大好きなトージの声が聞こえた。
「しもうた!」
ムズムズが気になるあまり、勝手な行動をしてしまった。
トージはとても優しいが、付喪神としてそこに甘えすぎるのは良くないだろう。
「すまぬ、トージ! 今行く!」
慌ててトージの声が聞こえた方に走るコン。
「おう、今日の晩飯はハンバーグだぞ」
「!! はんばーぐ!!」
ひき肉と玉ねぎと香辛料が奏でる至高のおかず。
一瞬でハンバーグに脳内を支配されたコンは、些細な違和感の事など
忘れてしまうのだった。
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