第10話 村にネットが欲しい

(想像以上ね……!)


 取材を続ける美里は内心の興奮を抑えるのに苦労していた。


 日本のみならず、世界のダンジョンの在り方を変えたカリスマ、穴守 鉄郎。

 探索者を目指し、挫折した美里にとってあこがれのスターだった。


 ならば自分はダンジョン業界を陰で支える仕事をしよう。

 そう決意した美里は、あまり知られていない探索者の実態を世間にPRすることを考えた。


 ダンジョンはすべて地下にあり、探索により得たダンジョンスキルで国の経済を下支えする存在だ。

 以前はどうしても地味で、お堅い仕事というイメージがついていた。


 だが、ダンジョン内で繰り広げられるバトルは迫力満点で、この魅力を世間に伝えたいと願った美里。


 7年ほど前に、ダンジョン攻略配信をするプロダクションを立ち上げる。

 ダンジョン内の通信環境と探索の安全性が向上していくにつれ美里の試みはだんだんと実を結び……。

 今や大きなムーブメントに成長していた。


(久々の大型新人だわ!)


 あの穴守 鉄郎の孫というネームバリューもさることながら、統二は気取ったところのない好青年だ。

 そこそこ顔も整っていて女性人気も見込めるだろう。


(コンちゃんもかわいいし)


 稲荷の憑神というのも大変に珍しい。

 可愛らしいケモミミ幼女というだけで視聴数は爆上がりだろう。


(あの姉妹も将来有望ね)


 健康的で純粋な姉にちょっとギャルっぽい妹。

 黄金比と言える組み合わせだ。


 彼女が運営する配信サイトに所属する探索者は数百人。

 視聴者は海外を含めると数千万人を超える。


(アイドル的な売り出し方に批判をする人もいるけれど)


 自分が運営する配信サイトを見て探索者を志す少年少女も増えている。

 ダンジョン業界の発展に貢献できているという実感があった。


(なにより!)


 ダンジョン内でスキルや魔法を駆使して戦う探索者の姿が。


(超かっこいい!!)


 スキル体系の奥深さも魅力だ。

 出現するモンスターも地域によって千差万別。一説には地脈の属性も影響しているといわれており……出現記録を読むだけでご飯3杯はいける!


(しかもしかも!)


 まれに現界するダンジョンの憑神は。

 例外なくめちゃくちゃ美男美女なのだ。


(うへへ、さいこー!)


 あまり表に顔は出さないが、業界ではダンジョン配信プロデューサー兼ダンジョンライターとして名をはせている竹駒 美里。

 彼女は重度のダンジョンマニアでもあった。


(護りたい……この笑顔!)


 素朴な田舎にある魅力たっぷりのダンジョンと可愛い憑神さま。

 自分の全力をかけてこの場所をアピールしよう。

 そう誓う美里なのだった。



 ***  ***


「それでは! また近いうちに訪問させていただきます!!」


 やけにテンションの高い美里さんが帰った後、俺たちはお疲れ様会をかねて収穫した梨でスイーツパーティを開いていた。


「うまっ!!

 トージさんが作るお菓子は相変わらずおいしいよ~」


「理沙ねぇもいい加減料理できるようになったら?」


「うぐっ……細かく切るの苦手なんだもん。

 そうだ! 梨の素揚げとかどう?」


「……マジでやめて?」


「にはは! この”こんぽーと”とやらは独特の歯ごたえでうまいのう♪」


 しゃくしゃくと小気味よい音をさせ、甘く煮詰めた梨を美味しそうに食べるコン。


「ほら、口についてんぞ」


「ふみゅっ」


 ほっぺに付いたカラメルソースを拭いてやる。


「へへ」


 にへらっ、と柔らかな笑みを浮かべるコンを見て、胸がきゅんっとする。

 くっ、これが父性か……可愛いぜ!



「むむぅ……わたしもソースを鼻に付けたらトージさんに拭いてもらえるかな?」


「理沙ねぇは身体がでかすぎて似合わないわよ」


「やっぱひでぇなこの妹!?」



「美里さんか……」


 じゃれあう笠間姉妹を横目で見ながら、俺は美里さんからもらった名刺を見る。

 背面には”竹駒プロダクション”の文字とともに、QRコードがプリントされている。


(どこかで聞いたことあるんだよな)


 理沙たちにも話したが、ここ数年ダンジョン探索の様子を配信するのがひそかなブームになっている。

 ダンジョン業界から距離を置いていた俺は、そこまで詳しいわけではないが……。


「くそ、やっぱ圏外か」


 QRコードを読み込もうと挑戦するが、5Gどころか3Gすらピクリとも反応しない。

 倉稲村は、通信網がまともに整備されていないのだ。


「礼奈の使ってる衛星通信は規格が古すぎて使えないし」


 どちらにしろ遅すぎて動画を見るのは無理だろう。


「ほらどーよ理沙ねぇ、最新の着メロ!!」


「凄い! これって16和音だよね!」


「…………」


 15年前の会話を繰り広げる笠間姉妹。


「伝手をあたってみるか……」


 まずはネット環境を整備した方がいいだろう。

 俺は前職のコネを生かして倉稲村ブロードバンド計画を発動させることにした。

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