第8話 市役所からの使者

「さて、”すきる”も無事解放されたの。くりあじゃ!」


「お、おう」


 ぴこぴこと機嫌よく狐耳を動かし、俺の肩に飛び乗ってくるコン。

 ダンジョンに潜る前、第三階層はモンスターの出現数を重視したと言っていたが……。


 =======

 ■基本情報

 管理番号:D21-000001

 ランク:SSS

 所在地:岐阜県山高市倉稲地区(旧倉稲村)

 階層情報:3/???(クリア済み/最深部)


 ■ダンジョンスキル

 緑スキル(ダンジョン本体効果)

  ・経験値獲得アップ(+5%) <<強化する

  ・資源コイン獲得アップ(+5%) <<強化する

  ・攻撃力アップ(+3%) <<強化する

  ・防御力アップ(+3%) <<強化する

  ・魔力アップ(+3%) <<強化する


 青スキル(エリア効果)

  ・収穫量アップ(+50%)  <<Ver up!! 階層クリアにより、強化されました

  ・施設劣化防止(+3%)  <<強化する

  ・省エネ効果(+3%)  <<強化する


 赤スキル(施設建築)

  ・道路トンネルLV4……(資源コイン消費:5000)


 ■資源コイン

 1800(+1500)

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(やばくね?)


 どうやら第三階層の獲得スキルは”青”だったらしく、【収穫量アップ】スキルが強化された。


(3%が50%になるってなんだよ!?)


 約十五倍の強化。

 とんでもなさすぎるだろ……。


「ふふふ、さすがに”赤”にするには力が不足していたの♪」


「いやいや、十分だろ?」


「さあトージ、資源こいんも溜まったことだし、早速使ってみようぞ!

 我がふるさと倉稲発展の……最初の一歩じゃ」


「あ、ああ」


 トンネルが出来たことで、すでに100歩くらい進んだ気もするが俺もこのスキルの効果に興味がある。

 ダンジョンスキルの一覧から、【収穫量アップ】を選択する。


「今は梨の収穫期だから期間は2週間……対象は剛さんの果樹園でいいか」


 青スキルは、効果時間や効果範囲で資源コインの消費量が変動する。

 広い範囲に長く影響を与えようとすると消費が大きくなるのだ。


「あ、わたしお父さん呼んでくるね!」


「頼む」


 理沙が笠間夫妻を連れてきてくれた。


「おお? トージの坊主が”すきる”を使うのか」

「新聞やテレビでたまに”収穫量アップ”のニュースを見るけど、本当に効くのかねぇ?」


 半信半疑な笠間夫妻。

 倉稲村で映るのは某公共放送だけ、新聞は1か月分まとめて届くので外の情報に疎くなるのも仕方がない。


「まあ、見ててください」


 青スキルを使うのは探索者養成校の実習以来だ。

 授業を思い出し、アプリのマニュアルも参照しながら慎重に発動させる。


【収穫量アップを発動します。資源コイン消費量:550】


 ヴンッ


「ふわっ!?」


 スキルが発動すると同時に、ダンジョンを中心に青い方陣が出現する。

 十二支が描かれた円形の魔方陣で、どことなく和風だ。


「いいぞトージ! 素晴らしい円陣じゃ!」


「よっと」


 両手を頭上に挙げると地面にあった魔方陣が空中に浮きあがる。


「効果範囲を調整して」


 ヴーーーーーーーーッ


 僅かな振動を伴い、拡がっていく魔方陣。


「ここらへんか」


 魔方陣を果樹園の上空に移動させ、頭上に挙げた両手を合わせる。


 ぱんっ!



 きらきらきらきら



「凄い! まほーじんから光が!」


「へぇ~、きれいじゃん!」


 魔方陣から降り落ちる光の粒が梨の木を包む。


 むくむくっ


「おいおい、梨の実が!?」


 木の枝に実った梨が大きく膨らみ熟していく。


「それだけじゃなく、売り物にならない小さな実まで?」


 わずか数分で、果樹園の木々はたわわに実った梨で埋め尽くされていた。

 実の重みで枝がたわんでいるのが見える。


「……こりゃ、驚いたな」


 手近な枝からもいだ実を見て、剛さんが唸っている。


「傷もねぇしばっちり熟してやがる。

 おそらく糖度も……」


 ぱくっ


 剛さんから実を受け取った理沙がぱくりと一口。


「あま~い!

 ほらほらコンちゃん、美味しいよ!」


 しゃくっ


「何という美味!!」


「あっ、ずるい! あたしも!」


 期せずして始まる梨狩り。

 俺もお相伴にあずかるとしよう。


「剛さん、早速コイツを出荷しませんか?

 スキルの効果は2週間なんで、おそらく何度か収穫できると思います」


「マジかよ!?

 この梨なら、爆売れ間違いねぇ!

 早速組合長に連絡するわ!」


「俺もクルマを出しますよ」


「おう、あの緑黄色軽トラな!」


「ピックアップトラックです……」


 俺の愛車は悪路走行性能抜群のジ〇プ。

 燃費は最悪だが最強パワーのニクイ奴だ。


「ははは! 荷物がたくさん積めるなら一緒じゃねーか!」


「ううっ」


 どうやら俺の趣味の理解者は村に存在しなさそうだった。



 ブウウン



「ん?」


 その時、軽快なエンジン音を響かせ一台の軽バンがやってきた。

 車体側面には『山高市』の文字。


「ああそうか、”赤”スキルを使ったから」


 いくらダンジョンスキルとはいえ、無条件に施設を作りまくることはできない。

 当然役所への報告と登記が必要になる。


「今日は日曜だし、明日でいいかと思ってたけど……」


 まてよ?

 トンネルが出来たのは1時間ほど前。

 いくら何でも嗅ぎつけるのが早すぎる気が……。


 がちゃり


「おう、土木課の山さんじゃねーか」


 まず運転席から降りてきたのは50歳くらいの男性。


 がちゃっ


「!!」


 次に助手席から降りてきたのは、思いもよらぬ人物だった。


 すらりとした長身に少しパーマをかけた黒髪。

 ぴっちりとしたパンツスーツで隙なくキメ、手にはタブレットとブランドバック。


 こんなド田舎には似つかわしくない、まるで丸の内を歩いていそうな理知的な女性。


「ここが、鉄郎さんの故郷ね。

 そしてあなたが、ウワサのお孫さん」


 黒髪の女性はそういうと、俺に向かってにっこりとほほ笑むのだった。

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