第6話 理沙たちの適正を鑑定する

「ええっ!? こんなわたしが探索者に?」


 学習塾のチラシみたいな反応をする理沙。

 翌朝、俺たちは屋敷にあるダンジョン入口に集まっていた。


「うおお、やった~!」


 全身で喜びを表す理沙はピンクのパーカーに白いショートパンツ、足元はハイカットスニーカーという動きやすそうな恰好だ。


「え~、探索者って暗くて狭いダンジョンに潜るんでしょ?

 なんかジメジメしてそうだし……服が汚れちゃうじゃん」


 それに対し、肩出しデニムシャツに白いミニスカート、足元はヒールのある厚底サンダルとダンジョン探索に行くと思えない恰好で現れたのは礼奈だ。

 右手に持ったカインマクビーのハンドバッグが絶妙に数世代前感。


「……探索者は稼げるし、配信するとモテるぞ(適当)?」


「!?!? ハイシン……よくわかんないけどモテるならやる!!」

「ふお? テレビカメラでも来るんですか?」


 ……どうやら笠間姉妹には最近ブームになっているダンジョン配信ネタは通じなかったようだ。


「まあいいか、服装はそこまで関係ないしな……。

 コン、準備はいいか?」


「……うむ、申し分のない出来栄えじゃ!」


 ダンジョンの入り口で目を閉じ印を結んでいたコンが目を開きにぱっと笑う。


「”すきる”用の地脈を魔物(モノノケ)に回したからの。

 じゃぞ♪」


 両手と尻尾をぶんぶんと振り、準備完了の合図。

 この可愛い神様、もはや何でもありである。


「相変わらずコンちゃん、可愛すぎません?」


「ふ、俺の憑神だからな!」


「……なんかいやらしい響き」


「なんでだよ!」


 ぺしり、と礼奈の脳天にチョップを落としておく。


「そんなことより、次からはもう少し動きやすい恰好をして来いよ?」


「え~、だってあたしのびぼーが岐阜じゅうに中継されちゃうんでしょ?

 柳ケ瀬(岐阜市の繁華街)で話題になっちゃうわよ」


「…………」


 配信だと岐阜どころか世界中に流れるのだが、説明してもピンとこないだろうから黙っておく。


「ていうかトージにぃの恰好もたいがいじゃんか!」


「なにっ!?」


 俺の恰好はアーミーグリーンのフライトジャケットにカーゴパンツ、足元は米軍払い下げのコンバットブーツだ。


「なんかおじさん臭くない?」


「なん……だと?」


 この研ぎ澄まされた機能美が分からないというのか?


「た、たしかに、その恰好で武器が弓っていうのはちぐはぐっていうか~」


「にはは! 稲荷の使いであるわらわの主人にしては和の心が足らんぞ?」


「でしょ! 理沙ねぇ、コンち!」


 がーん!


 少女たちに男のロマンは理解されなかったようだ。

 しばらく俺は、石になったまま立ち尽くしていた。



 ***  ***


「あ、あ~こほん! とりあえずこいつを渡しておく」


 なんとか精神的再建を果たした俺は、フライトジャケットのポケットから取り出したあるものを二人に手渡す。


「おまもり?」

「あ~、知ってる! 卍(まんじ)系だよね!」


「(だから古いぞ礼奈)”護符”って呼ぶ探索者が多いけどな。

 これを身につけておけば、モンスターに攻撃されてもHPが尽きない限りほとんど身体にダメージはない。

 その代わり、HPが0になったら動けなくなるから、HPの残りには気を付けるんだぞ?」


「ふへ~、凄いですねぇ」

「ふーん、ニュースで見たことあるけどダンジョン探索も進歩してるのね」


「まーな」


 ダンジョン探索業は国の基幹産業の一つ。

 安全装備に関する研究は日々続けられていた。


「よし、ダンジョンに潜るまえに二人の探索者適正を確認しておこう。

 それに応じて武器の形状が決まるんだ……まずは理沙」


「はいっ!」


 栗色の瞳をキラキラさせ、俺の前に立つ理沙。

 ぶんぶんと振られる尻尾を幻視してしまうぜ。


「それじゃ、目を閉じてくれ」


「は~い」


「ん? トージ、機械を使わんのか?」


 小首をかしげるコン。

 確かにコンの言う通り、探索者適正の確認には専用の機械を使うのが普通だ。

 ダンジョンが出現して数年ほどで開発されたと聞く。


「う~ん、俺は直接”視る”方が好きなんだよな」


「なんと!? その法は鉄郎も使えなかったぞ!」


 そうだったっけ?


 ダンジョンが出現してすぐ測定用の機械が開発されたため、探索者適正を”視る”スキルは発達しなかったらしい。

 この能力が発現した時、ドヤ顔で探索者養成校の同期に自慢して微妙な顔をされたことを思い出す。


「今から納屋を探るのも面倒だしな」


 俺は理沙の額に手を当て目を閉じる。


「ふひゃっ」


 くすぐったそうな理沙の声。


(これは……理沙は身体能力特化の格闘系か)


 理沙のステータスが頭の中に浮かび上がる。


 =======

 氏名:笠間 理沙

 種族:人間

 経験値:0


 級:1

 生命力:57

 術式力:0


 筋力:61

 敏捷力:55

 妖術力:0


 攻撃力:80

 防御力:73


 使用可能術式

 なし


 使用可能技式

 連撃壱式

 =======


「へぇ!」


 すがすがしいまでの物理突破、前衛タイプである。

 ……ちなみに、コンの影響でステータスは漢字表記なのだが、数値部分だけ見やすく変更してもらった。

 漢数字でもかっこいいけどな!!


 しゅいん


「わわっ!?」


 理沙の右腕にごつい手甲が、スニーカーを覆うように足甲が出現する。


「それが理沙の”武器”だな。

 本人の適正に合わせて自動生成されるぞ?」


「凄いですっ!

 何もつけてないみた~い」


 大きくジャンプし、ぶおんと回し蹴りを放つ理沙。

 すらりとした長身が青空に映える。


「う、理沙ねぇちょっとイケてるかも……ねえトージにぃ! あたしは?」


「おう、待ってろ」


 引き続き、礼奈の探索者適正を”視て”やる。


 ぴとっ


「……せくはら?」


「適性検査だろ!?」


 詳しくは割愛するが、礼奈は補助術式強化タイプで得物は銃だった。



 ***  ***


「つまり理沙ねぇを前線で戦わせて、あたしとトージにぃは魔法や銃でぺちぺち攻撃してればいいと」


「だな。理沙は生命力(HP)も防御力も高い。

 壁役に最適だろう」


「あたし銃なんて持ったことないから、最初のうちは手が滑って理沙ねぇに当てちゃうかもだけど大丈夫だよね?」


「ま、俺が回復術式使えるしあまり気にせずに行こう」


「らじゃ!」


「うおいっ! さすがに気にして!?」


「ぷぷっ、半分じょーだんだって!」


「はんぶん!?」


 じゃれあいを始める笠間姉妹。

 これで探索の準備は大体できたかな?


「にはは! それにしてもトージは素晴らしい能力を持っておるな!」


 ダンジョンの状態を最終確認していたコンが俺のところまでやってくる。


「そうか? 探索者適正測定器とそんなに変わんないだろ?」


「いやいや、級1にしてはすていたすが高いし、最初から技を習得させておる……笠間姉妹の潜在能力を最大限引き出したと言えるじゃろう!」


「う、うーん」


 そうなのだろうか?

 適正測定は学校で自分が受けただけなのでいまいちピンとこない。


「なるほどの……これが鉄郎の言っていた”希望”というやつか。

 ふむ~」


「??」


 一人得心しているコンの様子に首をかしげながら、俺たちはダンジョンの中に入っていくのだった。

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