第5話 幼なじみ達との再会

「なんだ、ものすごい音がしたぞ!?」


 屋敷の周囲にある家々から、慌てた様子の村人たちが飛び出してくる。

 そりゃそうだろう。


「う、嘘だろ……?」


 ある意味変わり果てた倉稲山の姿を見て、みんな唖然としている。


「おいおい、何事だよ!?」


 キキイッ


 農作業に出ていたらしき軽トラも駆けつけてきた。


「って、そこにいるのはトージの坊主じゃねぇか!」


「あらま久しぶり!

 鉄郎さんは残念だったわね……」


 軽トラの窓から顔を出したのは笠間(かさま)夫妻。

 じーちゃんのお隣さんで、俺も良く農作業を手伝っていた。


「今日はどうしたんだ? 屋敷の片づけか?」


「実は屋敷とダンジョンを相続しまして、ここに住むことになりました」


「そうなのか!?」

「そりゃ賑やかになるねぇ!」


 おじさんおばさんの顔が嬉しそうに綻ぶ。


「ガキ共も喜ぶぜ!」


「そういえば……」


 笠間夫妻には3人の子供がいる。

 この時間なら学校に行ってるはずだ。


 じーちゃんの尽力で、人口30人程度の限界集落にもかかわらず学校は維持されていた。小中高校が合わさった私立の(ある意味)一貫校だ。


「えっ!? トージさんっ!?」

「へ……なんでトージにぃがここにいるわけ? 仕事は?」

「わわ、トージ兄ちゃんだ!」


 屋敷から少し離れたところにある学校から駆けてくるのは制服姿の少年少女。


「おう、久しぶりだな!」


 懐かしい三人の顔をみて、思わず笑顔がこぼれるのだった。



 ***  ***


「はえ~、そしたらあのトンネル、トージさんが作ったんですか~?」


「正確には俺がクリアしたダンジョンの赤スキルで作った、だな。

 じーちゃんの願いを継いで、倉稲をもう一度盛り上げたくてな」


「!! それ、最高ですよ~♪」


 俺の周りを嬉しそうに駆け回るのはセーラー服姿の女子高校生、笠間 理沙(かさま りさ)。

 笠間家の長女で、地元倉稲村をこよなく愛する高校2年生だ。


「これで街まですぐに行けますね!

 すご~い!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるたび、豊かな双丘が揺れる。

 肩まで伸ばしたふわふわの茶髪とくりくりした大きな栗色の瞳。

 17歳にしては童顔だが、170センチを超える長身としっかりと鍛えられた身体はゴールデンレトリバーのような大型犬を思わせる。


「トージさん、また倉稲村ココに住んでくれるんでしょ?

 これで赤点取らずに済みますよぉ」


「おいっ!」


 図々しい事を言う理沙のおでこにぺちんとチョップ。


「へへ~♪」


 嬉しそうに抱き付いてくる理沙の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。


(りさわんこ……)


 勉強は苦手だが、なんとも癒される子なのだ。


「いやいや理沙ねぇ、ダンジョンスキル?でこんなヤバいトンネルが出来るなんてありえないってば!

 トージにぃ、なんか違法行為でもしたの?」


「するか!」


 人聞きの悪いことを言うのは、ブレザーの制服を少し着崩した少女。

 彼女の名前は笠間 礼奈(かさま れな)。

 中学2年生で、理沙の妹だ。


「え~、怪しいんですけどぉ? 不正の予感」


 毛先をシャギーさせたストレートパーマに赤いカラコン。

 全身を赤リボン付きカーディガン、ミニスカ、紺のハイソ、ローファーという懐かしい平成中期スタイルで包んでいる。


「あ~、でも……トンネルが出来たから通販とか届きやすくなるわよね?

 ねえトージにぃ、あたしの誕生日プレゼントに厚底ブーツ買ってよ!

 最新のjモード搭載ケータイでもいいかな!

 モクシィで自慢するんだから!」


「お、おう」


 礼奈は都会にあこがれているイマドキJCなのだが、悲しいかなブームが15年遅れてやってくるという倉稲村である。

 令和の世だというのに礼奈のケータイはゴテゴテにデコったガラケー。

 ちなみに村は圏外なので衛星回線(激遅)を使っているらしい。


「は、ははは……いつも姉たちがすいません」


 申し訳なさそうに頭をかく末っ子で長男の純(じゅん)。

 まだ10歳ながら、一番の常識人だ。


「それでよトージ、理沙の言うようにお前さんがあのトンネルを作ってくれたんだよな?」


 再会を喜び合っていると、3人の父親である笠間 剛(ごう)さんが話しかけてきた。


「そうっすね、倉稲村では美味しい梨がたくさん収穫できるでしょ?

 だけど山道がガタガタで街に運ぶまでに傷がついてしまう……あのトンネルを使えばきれいなままで運べませんかね?」


「おおっ、そりゃ助かるぜ!

 それにしても、鉄郎さんちのダンジョンはそんなに凄い効果があったのかい?

 今まではそんなことなかったが……」


 剛さんの疑問はもっともだ。


「実は、ウチのダンジョンが”神憑き”に進化しまして」


「神、憑き?」


「はい」


「……コン?」


 いきなりたくさんの人間が出てきて驚いたのか、コンは俺の後ろに隠れてしまった。

 彼女の頭を優しく撫でてやる。


「……怖くないかの?」


 少しだけ不安そうな上目遣い。


「ああ、みんないい人だぞ?」


「!! 分かった!」


 ぴんっと狐耳と尻尾を立てたコンは、てててっと俺の後ろから走りでる。


「え!? めっちゃ可愛いんだけど!!」

「トージさんっ、もしかしてこの子……?」


「トージと盟約を結ぶことになった、だんじょんの付喪神コンじゃ!

 みなのしゅう、よろしくな!」


 そういうとコンは、ぴょこんと行儀良くお辞儀をしたのだった。



 ***  ***


「これでうちの作物をガンガン出荷できるぜ!

 ダンジョンとは凄いもんだなトージ!」


「はは、コンが協力してくれたおかげですよ」


 その日の夜、屋敷の中庭を会場として、村のみんなが俺の歓迎会を開いてくれていた。


「鉄郎さんはこれを見越してトージの坊主を倉稲に呼んだんだな!」


「いやいや」


 じーちゃんはそこまで計画してたんだろうか?

 おばさんが作ってくれた豚汁に舌鼓を打ちながら考える。


「はふはふ、この厚揚げうまいのう!」


「ふふっ、いくらでも食べておくれよ?」


「うむ!」


 付喪神のコンは、その可愛らしい容姿も相まってすっかり村人たちのアイドルになっていた。


「ねぇねぇコンち! あたしが最新トレンドなスイーツを食べさせてあげる!

 名古屋から通販で取り寄せた、ティラミス!

 マジでおいしいよ!」


 コンを餌付けしようとする礼奈。

 平成どころか、昭和のブームなのだが大丈夫だろうか?

 指摘すると不機嫌になるので黙っておく。


「にはは! 流石に”とれんど”と言うには古すぎんか礼奈よ」


「うえっ!?

 ふ、ふふふふ、古くないわよ!?」


 なんと、コン自らツッコんでくれた。

 じーちゃんと盟約を結んだといってたから、むしろ古い方が分かるのかもしれない。


「さぁさぁみんな! 鍋プロのわたしが、メインディッシュを運んできましたよ~!」


 そんなタイミングで巨大な鍋を持った理沙が現れる。

 鍋の中ではたっぷりのイノシシ肉がおいしそうに煮えている。


「ぼたん鍋か……剛さんが捕まえてきたのか?」


「違いま~す。

 わたしが! 拳で! 一撃です!」


「おいおい」


 以前から運動が得意な理沙だが、さすがに素手でイノシシを仕留めるなんて無茶苦茶だ。


「あ~、こいつな?

 最近やけに強くなりやがって……イノシシやクマを追い払ってくれるから助かってるんだがな! がはは!」


(んっ?)


 すっかり出来上がっている剛さん。

 探索者適正の発露は、身体能力の向上を伴うことが多い。


(もしかして)


「……なに、トージにぃ?」


 片手でコンを”たかいたかい”している礼奈。


 この姉妹、探索者適正が目覚めつつあるのかもしれない。


「二人とも、明日は日曜だろ?

 ちょっと付き合ってくれないか?」


「ふお?」

「え、別にいいけど……」


 倉稲村を発展させるには、階層をどんどんクリアしてダンジョンスキルを解放していく必要がある。


(さすがに一人じゃ大変だからな)


 俺は二人に探索を手伝ってもらうことを考えていた。

 あとでコンに相談してみよう。

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