第4話 村づくりの第一歩(超豪華)

「ほらな、凄かったであろう?」


「凄いってレベルじゃないぞ……」


 経験値10万のモンスターなんて知らない……。

(ちなみに通常のゴールデンスライムの経験値は2万だ)

 一気にレベルが上がってしまった。


「こんなもの、わらわの力の一端にすぎぬ。

 地脈の力はまだまだ満ち足りておるからの!

 ふんふ~ん♪」


 俺と手を繋ぎ、鼻歌を歌うコン。

 見た目相応でとてもかわいいが、とんでもない力を持つ付喪神様だ。


「……まさか、何回でもさっきのモンスターを出せたりするのか?」


 恐る恐る聞いてみる。

 もしそうなら、俺は世界一のレベルを持った探索者になれてしまう。


「むむぅ、おそらく難しいの」


 顎に手を当て、考え込むコン。

 あ、それはさすがに無理なんだ。


「特別なモノノケを呼び出すには準備がいるからの」


 しゅるっ


 そう言うと彼女は少し巫女服の胸元を緩める。

 あらわになった胸元には、四つの勾玉があしらわれた首飾りが。


「鉄郎が錬成してくれたこの勾玉が、モノノケの触媒となるのじゃ」


 よく見れば、首飾りの一番端に不自然なスペースがある。

 先ほどのゴールデンスライム……金色粘液を呼び出すために使われたのかもしれない。


「さきほど捧げたのが”金色粘液”の触媒……他の四つが何を呼び出すのか、わらわも知らぬ♪

 どうする? 試してみるか?」


「遠慮しときます……」


 世界最高クラスの探索者だったじーちゃんが錬成し、とんでもない力を持つ付喪神様が呼び出すモンスターがどんなものになるか。

 残りの四つは切り札……というか、世界のために封印しといたほうがいい気がしてきた。


「ふふっ、気が変わったらいつでも言うが良いぞ?」


 てちてちと足音をさせながら、俺の横を歩くコン。

 ぶんぶん尻尾を振ってご機嫌だ。


「さて、あとはこの階層のヌシじゃな。

 いわゆる、ぼすもんすたーの事はトージも知っておるじゃろう?」


 コンの言葉に頷く。


 各階層の最奥に出現するボスモンスターを倒せば、次の階層へ行けるようになる。

 それに加えて、階層に紐づいた”ダンジョンスキル”が解放されるのだ。


 経験値獲得アップなど、そのダンジョンを探索する人間に影響する緑スキル。

 農地の収穫量アップなど、ダンジョン周辺地域に影響する青スキル。

 赤スキル、と呼ばれるものは少々特殊で道路や用水路といった施設をダンジョンの周囲にシ〇シティのように設置できる。


 解放確率は、緑>>>青>>>>>赤といったところで差があるが、赤スキルを引き当てた探索者には自治体や国から多額の謝礼金が支払われる事がある。

 噂では、東京に張り巡らされている地下鉄の基礎工事はほとんどダンジョンの赤スキルを使って行われたらしい。


「わらわがその”すきる”をある程度操作できるとしたら、どうする?」


「……え!?」


 とんでもないことを言ったぞこの付喪神様。

 解放されるダンジョンスキルの種類を選べるなんて、聞いた事がない。


「トージ、おぬしとわらわの相性の良さもあるが、の。

 わらわはずっとおぬしの想いを感じていたぞ?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべるコン。

 確かに俺は、10歳から高校卒業までの8年間をじーちゃんの家で過ごした。


 このダンジョンはお気に入りの遊び場で、外から入ってくる落ち葉などで汚れないよういつも掃除をしていた。

 倉稲村を離れてからも、定期的に掃除に来ていたのだ。


「清浄なる場所、強き想いには神の力が宿る、じゃ。

 さあ、トージ……おぬしの望みを言ってみるがよい」


 コンの蒼い瞳が俺を見つめる。

 脳裏によみがえってきたのは、じーちゃんの言葉だった。



 ***  ***


『ワシの見つけたダンジョンは、日本中を発展させてきた。

 じゃがなトウジ、ワシの本当の願いは生まれ育ったこの地を昔のように盛り上げることなんじゃ』


『……ここって昔、そんなにすごかったの?』


『おう! 米に野菜に果物、生糸も生産していたかの。

 ご先祖様も代々この地で農業をしていたのじゃぞ?』


『ふ~ん』


 小学生の自分にはあまり興味のない事だった。

 それより、じーちゃんのようなカッコいい探索者になりたかった。


『日本のダンジョンの始祖と言ってもいいこのダンジョン……若き日にかわした狐子との約束がまことなら』


『??』


『トウジ、類まれな適性を持つお前になら、かもしれん』


『よく分からないよ?』


『はっはっは! いまは分からずともよい!』


 じーちゃんの大きな手が、俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 俺は豪快で強いじーちゃんの事が大好きだった。



 ***  ***


 ほとんど忘れていた幼い日の会話が鮮明に思い出される。


 そうだな、これも縁ってヤツか。

 じーちゃんの願いを、孫の俺が引き継ぐのも悪くない。

 ここにずっと住むんだから、快適な街にしたいしな!


「この倉稲を……発展させたい!

 昔以上に!」


 コンに向かって、力強く宣言する。


「ほう! 鉄郎と同じことを言うのじゃな!」


 ぴくん、とコンの狐耳と尻尾が立つ。


「どうせなら、日本一の街にするぞ!」


 目指せ、首都移転! である。


「はっはっは! 夢はでっかく!」


 腰に両手を当て、大笑いするコン。


「なら、最初の”すきる”は赤がいいかの……。

 わらわはそこまで詳しくないから、おぬしの知識を借りるぞ、トージ」


 俺の手を握り、目を閉じるコン。


(ま、まさか?)


 赤スキルの解放確率は通常1パーセント以下。

 狙って出せるとは思えなかったが……。


「ふむふむ……してぃの基本はいんふらなのか」


 ギインッ!


 コンの両目が、怪しく輝く。


 ずももももも!


 煙の中から現れたのは、頭がサル、胴体が虎のモンスター。


「鵺(ぬえ)じゃ!」


 見た目は強そうだがダンジョンはまだ第二階層。


「心配せずとも、弱い個体じゃぞ。

 さあ、倒してみよ!」


「お、おう!」


 俺は鵺に向けて両手を突き出し、術(魔法)を発動させる。


『炎術参式!!』


 ゴオオオオッ!!


 炎を纏った旋風は、跡形もなく鵺を焼き尽くしたのだった。


 ぱあああああああっ


 ボスモンスターを倒すと同時に、ダンジョン全体がまばゆく輝く。

 階層を”クリア”した証だ。


『新たなスキルが解放されました』


 =======

 ■基本情報

 管理番号:D21-000001

 ランク:SSS

 所在地:岐阜県山高市倉稲地区(旧倉稲村)

 階層情報:1/???(クリア済み/最深部)


 ■ダンジョンスキル

 緑スキル(ダンジョン本体効果)

  ・経験値獲得アップ(+5%) <<強化する

  ・資源コイン獲得アップ(+5%) <<強化する

  ・攻撃力アップ(+3%) <<強化する

  ・防御力アップ(+3%) <<強化する

  ・魔力アップ(+3%) <<強化する


 青スキル(エリア効果)

  ・収穫量アップ(+3%)  <<強化する

  ・施設劣化防止(+3%)  <<強化する

  ・省エネ効果(+3%)  <<強化する


 赤スキル(施設建築)

  ・道路トンネルLV4……(資源コイン消費:5000) new!!


 ■資源コイン

 5300(+300)

 =======


「なっ!!

 赤!? しかもLV4!?」


 俺の記憶が確かなら、LV4の赤スキルは東京と大阪にあるSSランクダンジョンでしか……!


「さて、早速使ってみるとしよう♪」


 混乱した頭のまま、俺はコンに手を引かれダンジョンの外に出る。


「ほらほら、ぽちっとな」


「お、おう」


 コンに促されるまま、半信半疑でダンジョンの赤スキルを発動させる。


『資源コイン5000を消費し、道路トンネルLV4を発動します』



 どんっ!



「……は?」


 轟音と共に屋敷の正面にそびえる山のふもとに大穴が開いた。



 どんっ!

 どんっ!

 どんっ!

 どんっ!



 轟音は連続し、大穴を山の奥へ奥へと掘り拡げていく。


 バキバキバキッ


 そうして出来上がった大穴の壁面を、分厚いコンクリートが覆う。


「えっと?

 う、ウソだろ?」


 通常、赤スキルで出来上がる施設は基礎部分だけ。

 コンクリート舗装の仕上げまでされたトンネルが出現するなんて、信じられなかった。


「ふふふふふ。

 トージが伝えてくれた知識の中に、精密な図があったのでな!」


 不敵な笑みを浮かべるコン。

 確かに俺は先日まで建築事務所で働いていたが……。



 どんっ



 そうしている間に、トンネルが貫通した。


 あっという間に、山高市の市街地に通じる10㎞超の片側二車線トンネルが目の前に出現していた。


「…………(唖然)」


 どうやら俺はこの可愛い付喪神様に、とんでもないことを頼んでしまったようだ。

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