第3話 俺もレベルアップした

「ふむふむ、トージは素晴らしい探索者適性を持っておるが級(レベル)は低いままなのじゃな」


 黒曜石の壁で出来た第2階層に降りてきた俺たち。

 肩車がすっかり気に入ったらしいコンが、俺のステータスを見て唸っている。


「そ、そうだな……」


 正直、自分のステータスなんてどうでもいい。

 このダンジョンの持つポテンシャルの凄まじさに眩暈がしそうだ。


「なんだ? もう疲れたのか?

 若いのにだらしがないのう♪」


「いや、そういうわけではないんだが」


 俺はコンを胸に抱きなおすと壁に背を預けて座り込む。


「ふみゅ?」


 不思議そうに俺を見上げてくるコンのほっぺをぷにぷにする。


「このダンジョン、本当に俺のものにしていいのか?」


 第1階層をクリアしただけで、8つの赤・緑スキルを持つSSSランクダンジョン。

 正直、国家レベルで管理されるべきダンジョンだ。


 少なくとも専門学校(探索者養成校)卒の底辺リーマンが所有してよいものじゃない気がする。


「??

 わらわは鉄郎と盟約を結んだ」


 コンの青い瞳が俺を見つめる。

 何を言っておるのじゃ、と言いたそうだ。


「当然、盟約は孫であるトージに引き継がれる。

 遠慮することはないぞ?」


「でも……」


 俺はたまたまこのダンジョンを相続しただけである。

 それも、篤さんら親戚連中の圧力によって。


「……誰でもよかったわけじゃないぞ?」


「え?」


「鉄郎の血族であり、鉄郎を肉親として大事にし。

 彼とわらわの故郷である倉稲で共に過ごし。

 この地を離れてからも大切に想い続けていた」


「しかもたぐいまれな適性を持つおぬしがいなければ。

 わらわはこうして現界できなかったであろう」


 きらり、と光を放つコンの相貌に吸い込まれそうだ。

 ダンジョンの付喪神……その言葉が改めて実感できる。


「わらわとこのだんじょんはもうすでにおぬしと共にあり。

 おぬしの許可がなければ、余人はここに入る事すらかなわぬ」


「そうなのか?」


 そんなダンジョン、あまり聞いたことがない。

 俺はこの子に”憑かれた”のかもな……自然とそんな言葉が脳裏に浮かぶ。


「それにじゃ」


 腕の中で、にやりといたずらっぽい笑みを浮かべるコン。


「現界したわらわはただの小童(こわっぱ)じゃからの。

 おなかもすくし、成長もする。

 責任を取ってもらわねば、な♪」


 むぎゅっ


 抱き付いてくるコン。

 お日様の香りが鼻をくすぐる。


「うえっ!?」


「せっかくじゃから、ヒトの生世を楽しむとしよう!

 たのむぞ、トージ!」


 ……どうやら俺は、ダンジョンの管理と子(神さま)育てを同時にすることになりそうだ。



 ***  ***


 てちてち


「せっかくそれだけの適性を得、寺子屋(探索者養成校)も卒業したというのに、なぜ生業(なりわい)にしなかったのじゃ?」


 一休みした後、第2階層の探索を再開した俺たち。

 俺の左手を握って歩くコンは不思議そうだ。


「叔父(篤)たちに目を付けられたくなかったからな~」


 ダンジョンが出現するようになってしばらくして、人々の間に探索者適性という指標が現れるようになった。

 適性が高いほど身体能力が強化され、ダンジョンの内部限定という縛りはあるがスキルと呼ばれる技や魔法を使うことが出来るようになる。


「あんな人の下で働くのはまっぴらごめんだし」


 俺の父親は穴守一族の中で例外的に探索者適性が皆無で、息子である俺も無適正者だと馬鹿にされていた。


 父の事を一族の恥さらしだと陰口を叩き、葬儀の際に笑みすら浮かべていた篤さん。

 俺は彼が大の苦手で、高い探索者適性を持っている事がバレないよう距離を置いていたのだ。


「それが、こんなことになるなんてな」


 とりあえず、数千万円と試算される土地と屋敷の相続税を払う必要がある。

 資源コインやモンスターがたまに落とす”素材”を売却するのが手っ取り早い。


「そのためには、探索をしなきゃだが……」


 適性と資格はあるとはいえ、実際に探索業に就いていた訳じゃないので俺のレベルは低い。

 通常ならある程度のレベルになるまで半年以上はかかるので、税金の支払い期限に間に合うだろうか?


「そんなもの、わらわに任せるがよい!」


「むんっ」


 両手で印を組み、むにゃむにゃと何かを唱えるコン。



「えいっ♪」


 ぽんっ!



 やけにかわいい掛け声とともに、目の前に1体のモンスターが出現する。

 大型犬ほどの大きさの、金色に輝くジェル状の物体。


「っっっっっ!?

 ゴールデンスライムっ!?」


 思わず叫び声を上げてしまう。


 最弱クラスだが莫大な経験値を持った激レアモンスターだ。

 コイツが目撃されたフロアの探索権を1000万円出して購入する探索者もいるらしい。


「にはは、そんなハイカラな連中とこの”金色粘液”を一緒にしてくれるな。

 もっと凄いぞ? ほら、倒してみるがいい」


「お、おう」


 何が違うのかよく分からないが、魔法を使うためステータスを展開する。


 =======

 氏名:穴守 統二

 種族:人間

 経験値:七十三


 級:弐

 生命力:三十

 術式力:十五


 筋力:二十三

 敏捷力:十八

 妖術力:五十七


 攻撃力:二十五

 防御力:三十三


 使用可能術式

 炎術壱式

 回復術壱式


 使用可能技式

 連射壱式

 =======


「お?」


 ステータス表示がすべて漢字になっている。

 コンの影響だろうか。

 ちょっと好き。


「こ、これがファイアか?」


 探索者養成校の判定では、どちらかというと魔法の方が高適性だった。

 俺は魔法リストから「炎術壱式」を選び、目の前のゴールデンスライムに向けて発動させる。


『炎術壱式!!』


 ファイア、と叫んだつもりが日本語になった。

 これはこれでカッコいいぜ!


「ふふっ、(中二病の)素養があるの!」


 どおおおおんっ!


 何の素養かはよく分からないが、目の前に出現したバレーボール大の火球は、あっさりとゴールデンスライムを焼き尽くす。


 ぱあああああっ


「うおっ!?」


 次の瞬間、俺の全身が光に包まれ……どんどん身体の奥底から力が湧いてくるのを感じる。

 どうやら、レベルアップしたらしい。


「にはは、もう一度すていたすを見るがよい」


 言われるがままに俺はステータスを開き……。


 =======

 氏名:穴守 統二

 種族:人間

 経験値:十万七十三


 級:四十

 生命力:五百三十三

 術式力:六百十六


 筋力:二百十一

 敏捷力:三百四十三

 妖術力:四百十


 攻撃力:二百三十三

 防御力:三百五十


 使用可能術式

 炎術壱式、弐式、参式

 氷術壱式、弐式、参式

 電撃術壱式、弐式

 回復術壱式、弐式、参式


 使用可能技式

 連射壱式、弐式、参式

 遠射壱式、弐式

 =======


「は!?」


 いきなりレベルが40まで上がったぞ!?


「いやちょっとまて、獲得経験値10万!?!?」


 やっぱりこの子、とんでもない神様だ。



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