第2話 ダンジョンがランクアップした

「にはは~、鉄郎が天に召されたら孫の為にわらわの封印を解く……そういう約束だったからの。それにしても、人の世はまことに趣深い所よのう♪」


「あ、こら! 動くと落ちるぞ?」


 コン……屋敷の敷地内にあるGランクダンジョンの付喪神だと名乗った狐幼女は俺の肩の上でゴキゲンである。


 俺はコンを肩車して、屋敷の敷地内にあるダンジョンへと向かっていた。


「ん?」


 苔むした日本庭園の奥、しめ縄と紙垂(しで)で飾られた一角にダンジョンへの入り口がある。


「なんか、光ってる?」


 ダンジョンを構成する石の壁が、朧げな光を放っている。


 両親を事故で失った後、半ば厄介払い気味に祖父の家に預けられた俺は何度もこのダンジョンに潜ったことがある。

 探索済みのダンジョンにはモンスターも出現しなかったが……どこか落ち着いた空気の流れるダンジョンの中が好きだった。


「鉄郎とそなたがだんじょんをきれいに保っていてくれたから、わらわもたっぷり力を蓄えることができたのじゃ!」


(この子、本当にダンジョンの神なのか?)


 ダンジョンが地脈と結びついて発生するのは説明したとおりだが、ごくまれに”神憑き”と呼ばれる特別なダンジョンが出現することがある。


 普通のダンジョンも地脈のエネルギーを使って周囲の農地の収穫量を僅かに増やしたり、道路などの劣化を遅らせたりといろいろな効果を発揮するのだが、”神憑き”のそれはけた違いだ。


 農地の収穫量アップ効果は普通のダンジョンの数倍から数十倍。

 それだけでなく、”神憑き”ダンジョンには特別な効果が……。


(まさか?)


 俺はスマホでダンジョンアプリを開き、このダンジョンの”ステータス”を開く。

 このダンジョンアプリは篤さんから屋敷の権利書と共に渡されたものだ。


 =======

 ■基本情報

 管理番号:D21-000001

 ランク:G

 所在地:岐阜県山高市倉稲地区(旧倉稲村)

 階層情報:1/1(クリア済み/最深部)


 ■ダンジョンスキル

 緑スキル(ダンジョン本体効果)

  なし

 青スキル(エリア効果)

  ・収穫量アップ(+0.01%)

 赤スキル(施設建築)

  なし


 ■資源コイン

 10

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「うっ」


 さすがに資産価値0のGランクダンジョン。

 悲しいほど低いステータスにめまいがしてくる。


 モンスターを倒すことで地脈の結晶である通称:資源コインを入手できる。

 また、各階層をクリアすることによりダンジョンスキルが解放されていき、資源コインを消費してスキルを強化するのがダンジョン探索の基本なのだが……。


(うちのダンジョンはモンスターも出ないし、1階層しかない!!)


 つまり、これ以上ランクアップすることできないという事……普通なら。


「ふふん、そいつがわらわのだんじょんについての情報か?

 いささか古いのう♪」


 ぱりぱり。


 俺が持参したポテチを美味しそうに食べるコンはあくまで不敵な笑みを浮かべている。


「さぁ、だんじょんへ入ろうぞ。

 百聞は一見に如かず、じゃ」


 コンに促されるまま、ダンジョンの入り口をくぐる。


「!!」


「ふふ、変わったであろう?」


 中に入った途端、思わずその場に立ち尽くす。

 奥行きが広く、たくさん脇道があるものの1階層しかなかったはずのダンジョン。


 だが、目の前に口を開けているのは地下2階層に繋がる階段。


「もう一度すていたすを開いてみぃ。

 情報が更新されるはずじゃ♪」


 肩に乗ったコンの小さな手が、俺の頬をぷにぷにと引っ張る。


(ごくっ)


 俺は恐る恐る”ダンジョンステータス”を開く。


『ダンジョンがランクアップしました……情報を更新しています』


「!!」


 アプリに赤い文字が表示され、シークバーが伸びていく。

 数十秒後に表示されたステータスは……。


 =======

 ■基本情報

 管理番号:D21-000001

 ランク:SSS

 所在地:岐阜県山高市倉稲地区(旧倉稲村)

 階層情報:1/???(クリア済み/最深部)


 ■ダンジョンスキル

 緑スキル(ダンジョン本体効果)

  ・経験値獲得アップ(+5%) <<強化する

  ・資源コイン獲得アップ(+5%) <<強化する

  ・攻撃力アップ(+3%) <<強化する

  ・防御力アップ(+3%) <<強化する

  ・魔力アップ(+3%) <<強化する


 青スキル(エリア効果)

  ・収穫量アップ(+3%)  <<強化する

  ・施設劣化防止(+3%)  <<強化する

  ・省エネ効果(+3%)  <<強化する


 赤スキル(施設建築)

  なし


 ■資源コイン

 5,000

 =======


「……は?」


 開いた口が塞がらない、とはこのことだ。


 日本に存在するダンジョンの最高ランクはTokyo-FirstのSS。

 Gランクだったはずのダンジョンは、その記録をあっさりと塗り替えてしまった。


「え? ダンジョンスキルがこんなにたくさん?

 ええ? 第1階層しかクリアしてないのに?」


 学生時代は探索者養成校に通っていたので、それなりの知識はある。

 クリア済みの階層が1、つまりほぼ初期状態のダンジョンが持つダンジョンスキルはせいぜい”青”が1つ。


 それなのにこのダンジョンは……。


「もちろん、そなたが各階層を攻略していけば、もっと”すきる”は増えていくぞ?

 ちなみに最深部が何階層か、わらわも知らぬ♪ 百はゆうに超すじゃろうがな」


「は、はあああああああぁぁぁっ!?」


 Tokyo-Firstの最深部は確か97階層。

 このダンジョンを攻略するとどんなことが起きるのか、この時の俺は想像することもできなかった。

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