相続したGランクダンジョンがSSSランクに進化した ~【収穫10倍】潜るたびにチート効果ゲットでうっかり世界の覇権を取ってしまう【経験値10倍】~

なっくる@【愛娘配信】書籍化

第1話 遺産相続から始まるド田舎生活(神様付き)

「統二ィ(とうじ)、お前は義父さんと仲良かったよなぁ! だからお前の取り分は義父さんの家と敷地内のGでいいだろ?」


 叔父である穴守 篤(あなもり あつし)がただでさえ小さい目を更に細めて俺に圧をかけてくる。


 目の前に並ぶのはこちらを面倒くさげに見つめる親戚連中。

 なんでもいいから、早くこの場を離れたい。


「亡き義兄さんの忘れ形見とはいえ、お前はまだ若い。

 探索者適性も義兄さんに似てなお前に負担を掛けたく無くてなぁ?」


 俺の祖父、穴守 鉄郎(あなもり てつろう)は高名なダンジョン探索者でいくつもの高位ランクダンジョンを発見し日本の発展に貢献してきたカリスマである。


 その祖父が先日亡くなった。


 祖父の長男だった父は既にこの世におらず、遺産分与の親族会議に俺が呼ばれたという訳である。


「…………ありがとうございます」


 篤さんはじめ親族連中の狙いは、祖父が所有していた莫大な価値を持つ高位ランクダンジョンだ。

 魑魅魍魎が跋扈するダンジョン業界にあまり関わるつもりのない俺は、心を無にして書類に実印を押す。


「素晴らしい心掛けだぞ、統二ィ」


 篤さんはでっぷりと膨らんだ腹を揺らして大笑い。

 あの、もう帰っていいですか。


「そうそう、言い忘れていた」


「?」


「いくらGランクダンジョンとはいえ、正式に国に登記されたダンジョンだ。所有者に管理義務が生じる」


「……え?」


「穴守家代々の土地と屋敷の管理もしろよ?

 もちろん相続税もお前が払うんだ」


「……えええっ!?」


 祖父の屋敷はとんでもない山奥にある。

 実質的な価値はゼロだが、登記上の評価額は高い。


「長男の息子の務めだろ?

 わはははははは!」


「マジかよ……」


 篤さんに反論する気力もなく、がっくりとその場に膝をつく。


 俺、穴守 統二(あなもり とうじ)の平凡な生活は、こうして終わりを告げたのだった。



 ***  ***


「相変わらず遠いな……」


 親族会議から数日後。

 俺は愛車を駆り岐阜県の山奥を目指していた。


「じーちゃんちの敷地内にあったダンジョンか……」


 ダンジョン。


 今から80年ほど前、各地に出現したソレは終戦間もない日本を混乱の渦に叩きこんだ。

 だがすぐに、ダンジョンが復興に役立つことが分かる。


 モンスターを倒すことで得られる資源。

 それだけでなく、地脈と強く結びついた特別なダンジョンは周辺地域に好影響をもたらすことが判明した。

 ダンジョンから湧き出る地脈のエネルギーで土地が肥沃になったり、発電が出来たり。


 ダンジョンの研究が進んだ今では、探索者と呼ばれる専門職が各地のダンジョンの探索を続け、日本の発展を支えている……という訳である。


「黎明期から存在していたダンジョンらしいけど、現代の規格ではGランクか……っと!?」


 岐阜県の北部にある山高市の市街地を過ぎ、クルマはさらに山奥に分け入る。

 当然のように道路は1車線となり、考え事をしているとカーブで脱輪しそうになる。


 ダンジョンはSSランク~Gランクまで評価付けされる。

 東京と大阪にある超大規模ダンジョンがSSランク。

 両市を世界最大の工業都市足らしめている、資源取得効率最高のダンジョンだ。


「それに引き換え」


 俺が相続したダンジョンは何の効果も生まないGランク。

 一応、ダンジョン黎明期は貴重なダンジョンとしてじーちゃんを始め初期のダンジョン探索者・研究者によってすみずみまで探索されたらしいけど。


「資産価値は、当然ゼロ円なんだよな……はぁ」


 車窓から見えるのは森ばかり。

 スマホはとっくに圏外だ。

 さらに山奥に進むにつれ、道路がどんどんガタガタになる。

 ダンジョンの


「ようやく、着いたっ」


 路肩が崩落している峠の頂上を越えると、一気に視界が開けた。

 10㎞四方はある広大な盆地。

 盆地の真ん中を水量豊かな川が流れ、その両側に農地が広がる。

 ぽつぽつと人家が点在するが、そのほとんどは廃屋だ。


「半年ぶり……か」


 川の手前側に広い土地を持つ屋敷と、人の住んでいる住宅が6軒ほど。

 ここが祖父の生まれ故郷であり、俺が相続したGランクダンジョンが存在する倉稲(くらいね)地区である。

 現在の人口は確か数十人……消滅集落待ったなしだ。


「ふぅ」


 俺はため息を一つ、クルマを穴守家の屋敷へ向けて走らせるのだった。



 ***  ***


「変わってないな……」


 じーちゃんが倒れたと近所の人から連絡があったのが半年前。

 たまたま近くまで来ていた俺がクルマでじーちゃんを山高市の病院まで運んだ。

(倉稲地区につながる道路は悪路で救急車が入れず、ドクターヘリも出払っていたのだ)


「もうちょっと荒れてると思ったけど」


 あれから台風もいくつか来たはずである。

 それなのに、母屋も庭の植木も綺麗で


「村の人が手入れしてくれてたのかな?」


 山高市倉稲地区……旧倉稲村は今や限界集落だとはいえ、最盛期は農業を生業とする千人以上人の人が住んでいたらしい。

 地元の名士だったじーちゃんの屋敷の掃除をしてくれる人がいても不思議ではないが……。


 かちゃり


 合鍵を使い母屋の中に入る。


「んん?」


 靴を脱ぎ、玄関を上がったところで違和感がさらに大きくなる。


「床がきれいだ……」


 じーちゃんを搬送した際、しっかりと戸締りをした。

 半年もたてば人の住んでない家には埃が溜まるはずだ。


「ごくっ」


 ホームレスが住み着いているのか?

 いやいや、窓が破れている様子もなかったし、そもそもこんな不便な所まで来るわけがない。


 俺は導かれるように母屋の西側、じーちゃんが寝起きしていた部屋に向かう。


「!!」


 廊下の先、少しだけ開いた障子の向こうでゆらゆらとロウソクの火が揺らめいているのが見えた。


 誰かが……いる!?



 ぎしり……



 音を立てないよう、慎重に板の間を歩く。

 何しろ今日からこの屋敷に住むのだ。

 不逞の輩が侵入しているのなら、排除しなくてはならない……一応、普通の人間なら取り押さえられるはずだ。


「…………」


 障子の隙間から、そっと中の様子をうかがう。



「……ようやく来たようじゃな、トージ」



「!?!?」


 突然名を呼ばれ、思わずその場で飛び上がってしまった。

 仏壇の前に正座しているのは7~8歳くらいの幼女。


 すっ


 幼女がゆっくりとこちらを振り返る。


(う、ウソだろ!?)


 俺が驚いたのは彼女が部屋の中にいたからではない。


 ふぁさっ


 橙色の毛でおおわれたふさふさの尻尾。

 ピコピコと動く狐耳。

 ふっくらとしたほっぺに切れ長の蒼い瞳。


 紅白の巫女服に身を包んだ幼女は、俺に向かってその小さな手を伸ばす。


「わらわの名は、コン。

 だんじょんのじゃ」


「!!!!」


「そなたの祖父、鉄郎との盟約により現世に舞い降りそなたを助く。

 さぁ、だんじょんに向かおうではないか」


 コンと名乗った幼女はそう言うと、にっこりと微笑んだのだった。

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