第9話 一番下の一番上

 射程が短いので獲れなかった地属性の十九歳二人と、十六歳一人が士官学校から追加になって、翼の生えた狼頭の戦闘躯を得た。

 犬頭はお父だけ。ある意味個性的。

 十六歳は中央砦の中将の孫娘、祥鶴殿。名乗られてしまった。

 剛鷲殿の結果が出るまでは、地属性では防御力を上げて、接近戦で勝つしかないと思っていた。

 後の希望者は命中率や攻撃力が低いとされて、一旦橋頭保を引き払う。

 守護将閣下主催の感謝の宴が開かれた。

 

「銀鷹と流紋猫を獲りに行こうと思うのですが、皆様お好みは、いかがでしょう」


 同格でも追加は四つまでしか取れない。

 五つ入っていると、躯体獣を倒しても出なくなる。


「ご同行が、叶うのですか」


 祥鶴殿が真っ先に反応した。


「お好みが合っても、部隊指揮などの学業がおありなのでは、ありませんか」

「その様なものは、後からでもどうにでもなります。可能な限り躯体球を得るのが、肝心です」


 他の人達も頷く。引き続き士官学校組全員の戦闘力と、一門の協力が得られる事になった。

 優れた平民に無茶をして、国から逃げられた前例は何処の国にもあり、

他国に逃げた者は力を隠して平凡を装うので、総合的に人類の損失になる。

 西砦守護将閣下は、良く戻って来てくれた、とおっしゃっただけで、それ以上の接触はなかった。

 

「鷹なら落とせるだろうから、香嬉にもやらせる」

「耀蘭の面倒は「お母が見る」」


 繰り返しギャグもやり過ぎるとつまらないだけ。

 銀鷹の生息地は割と近いので、全員で行く事になった。

 全員飛べるので、帰りも問題がない。

 飛行性で集団で襲ってくる魔物は、中層にはいない。

 耀蘭は周りが全て戦闘躯で、抱えられて飛んでも怖がらない子になってしまっている。


 銀鷹には真正面から行く。恫喝無効なら、物理攻撃力の低い絶叫は、銀の盾で防げる。

 好物の羚羊を獲って、木の上で待っていると、直ぐにやって来た。

 絶叫を盾で防ぎ、倍撃の強射を返す。

 落ちて行くのを空跳で追い、剣で突き、盾で殴って、何もさせずに勝った。

 融合すると、翼の色が緑がかったいぶし銀になる。


「最早鋼ではありませんね、蒼銀の翔鷹殿とお呼びしましょう」


 理凰殿が中二病的な事を言う。年齢は高二か。

 次のお母は、遠射の射程に隠れていれば問題ない。

 同じように羚羊を見せびらかして待っていたらやって来たので、撃ち落とされた。

 予定通り二羽獲って帰った。


 翌日はお父の処まで小さい羚羊を抱えて跳んで逃げた。

 直線番長なので、左右に躱しながら跳ぶと、意外に追い付かれない。

 やはり耀蘭を連れてくるのは心配なので、二羽目は香嬉にやらせてもらった。

 射程に入れば、ウサギより器用度の高い職人の二連射は鷹にはきつい。

 ちょっと攻撃力が足りないので、無駄に痛かったと思う。


 香嬉は翼の色が俺と同じになった。

 俺は小耳狼が入っているので細マッチョで、並ぶとどっちも女体なのに男と女に見える。


「先に深淵鷹を獲っていれば、同じになれたのに」


 祥鶴殿が嘆く。戦闘躯のリセマラは出来ない。

 鷹が最初だと防御力が低くなるので、基本的に西の猫、東の狼になっていた。

 地属性と風属性では、同じものを入れても同じになる保証もない。


 香嬉が取れたので、命中率が高ければ攻撃力は多少低くても構わないので、風属性的中持ちが三人来た。

 香嬉は耀蘭と砦で留守番。お父とお母は別行動で猫を獲りに行ったが、逃げられてしまった。


「やっぱり、お前が引いて来てくれないとだめみてえだ」

「それも俺が子供の内だろうな。耀蘭の合力は出来ないか」

「恫喝を取らせられたら、お前と同じになれるんだが、まず出ない。猿以外だと、中層の奥になっちまう。なんで、浅層で恫喝や威圧をするのが落さねえんだか」

「別のを落とすか、何も落とさないかなんだな」


 俺の有用性が半端ではないので、国の上の方がとっくに調べている。

 作業で全員分の銀鷹を獲る。

 猫も俺なら追いかけて来た。

 あと一つをみんなに相談する。


「五つ目は、山羊にしたいのですが」


 風属性組は三つ目だけど。


「防御力、耐久力に優れていますね」


 何を言っても全肯定される雰囲気の中で、次の獲物は咆哮山羊に決まった。

 強力な衝撃波の咆哮と高い防御力、空跳での敏捷な立体機動で、中層躯体獣最強、持っていると猛者と言われる躯体だった。

 生息地は中央砦の北。

 王城かと思われる巨大な城塞の中を、祥鶴殿が自分が連れて来た、みたいな顔で案内してくれる。

 王姉の娘の娘の守護将閣下にお目通りした。


「来たか、翔鷹上尉。咆哮山羊狩りとは、剛毅なり。若き者の手引きとなる工夫、楽しみにしておるぞ」


 同じように出来なくとも、自分なりの工夫のヒントになるかも知れないので、多くの者に見せて欲しいとの事だった。

 御前を辞して宿舎に行こうとしたら、敵意を感じた。

 軍内では初めてだ。若い男が横道から現れた。


「英豹殿、失礼でありましょう」


 祥鶴殿が気色ばむ。


「貴殿らに、咆哮山羊が獲れるとは、思えない」

「貴方がどう思おうと、勝手です。こちらは何も困りません」

「我等、将官の身内にすらなされぬ、特別な配慮があると聞く。その価値がその男にあるのか」

「それを判断されたのは、上の方々でしょう。そちらにお聞き下さい」

「何を!」

「英豹殿、お引き下さい。不満がおありなら、上申なさればよいでしょう」

「ぬう」


 祥鶴殿に睨まれて、男が道を開ける。

 少し離れてから、祥鶴殿が説明してくれた。


「守将のお一人、翠鵬中将閣下のひ孫の一人です。ここには、五つ目の躯体に咆哮山羊を獲りに来ている者が多くおります。みな、己を人並み以上と信じています」


 十九歳前に四体の躯体を得て士官学校を卒業し、予備役に入って二十五歳までに咆哮山羊を獲るのが、将官の血族の証になるそうだ。

 英豹は十七歳で卒業して、俺が現れるまでは若手のトップだった。

 そんな男でも、一年挑んでいるがまだ獲れない。

 俺が佐官用の宿舎を与えられているのが気に食わないようだ。

 俺の場合、他人の合力が出来るのが評価されているのだけど。

 初見で一人で挑むのは危険過ぎるので、一度全員で攻撃して、防御力、敏捷性を見る。

 流石に、香嬉と耀蘭は残して行く。

 生息地まで一気に飛んで、全員生身に戻る。

 いくら最強の躯体獣でも、戦闘躯が一体でも近付けば逃げる。


 見付けたのは、太い巻き角が頭全体を防御している、白黒斑の二トンはありそうな巨体だった。


「動きを見るために一当てしてみる。危なくなるまで手を出さないで」


 一番弾足の長いお母に言って、山羊の正面に跳んだ。

 顎を引いてから口を開けたのを見て直ぐに垂直に跳び上がり、上を取る。

 音より先に来た衝撃波が下草を吹き飛ばしたが、俺の処には届かない。

 上を向いた鼻面に闘気弾を撃ったが、角で弾かれた。

 跳躍して正対して来たので、細かく跳んで横に回る。


 飛びながら闘気弾を撃っているが、当たってもダメージはなさそうだ。

 後ろを取るために動いていると、どんどん高くなって行った。

 霊気が切れて落ちて死んでも、攻撃しているので勝ったことになるか、死亡時に攻撃のダメージがないと事故扱いか。

 持久力もあるはずなので、こっちが先にガス欠になる可能性が高い。


 背中に乗ろうとしたら、意外に首が自由に動く。

 乗っても暴れ馬と同じに振り落とされるか。

 敏捷性では勝っているので、今のところダメージはないが、攻めきれない。

 何か手はないか。窮鼠猫を食む、違うな。

 奇手、からめ手で攻略できる相手じゃないのか。

 正面から挑むのはなんだっけ? 牛の角を掴む?

 山羊の角も掴んでもいいか。


 バックラーを捨て、剣を鞘に戻す。躱しながら収納は出来ない。

 角は霊障壁で覆われていても、固いだけで掴んでもダメージはない。

後ろから掴んで、後頭部を蹴る。倍撃強打。


「ネええェ!」


 初めてまともにダメージが入ったようだ。

 首を振ったくらいでは離してやらない。

 ガシガシ蹴っていると、高度が落ちた。

 空跳を止めて、俺を振り落とすのに専念し始めた。

 もう少しで地面と言う所で、思い切り蹴って跳び離れる。


 山羊は地面に激突した。

 起き上がろうとする山羊の首に剣を突き刺し、逆立ちして空を蹴った。

 剣が刺さり、首を振った勢いで折れる。

 跳び離れて、収納から銅の短剣を出して、半身を起こした山羊の目を撃つと、倒れて生命力が解放された。

 お父が最初にくれた剣で、山羊の胸を開き、琥珀色の球を取り出した。

 最初の一つと同じに、みんなの方に見せてから、吸収した。

 足を山羊の足にする。

 二股の蹄と二つに割れた踵。非常に安定している。


「やったね」


 最初にきたのはお母だ。


「俺の、息子」

「ああ、お父のくれた剣で仕留めた」

「おお、もう、銀の剣は卒業だな」

「この先の相手は、もっと丈夫なのじゃないとだめだな」

「この先に行くか」

「うん」


 剛鷲殿が近寄る。


「我らを、共にお連れ下さい」

「一緒に行ってくれますか」

「是非に!」


 士官学校組はみんな、一緒に行きましょうと言ってくれたが、山羊が獲れそうなのは、お父と剛鷲殿だけだろうと思う。

 お父に次に獲るか聞いたら、止めておくと言った。


「それでは、明日は剛鷲殿、なさいますか」

「はい、挑みます」


 少し早いが、二体獲れる時間でもないので、今日は帰る。

 他の人は無理なので、別のを探そうとなったのだが、しばらくして祥鶴殿が、みんなが終わって生命力を貯めてからやらせて欲しいと言った。

 接近戦向きの地属性なので、出来なくもない。

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