第8話 高機動だけど防御力の低い深緑色の飛べるもの
「翔鷹徒士頭は色として銀を好むか」
西に戻って、お父に猫を獲らせようと思うので、お暇の挨拶に行って曽祖父閣下に言われた。
「いえ、速度と持久力が欲しいと思い、最初の躯体に銀鷹を選んだだけです」
「躯体獣の鷹であれば、ここにもおる」
「
深い淵のような深緑色の翼の鷹がいる。
「うむ。好まぬか」
「そうではないのですが」
深淵鷹は森の木の間を巧みに飛ぶ。銀鷹は最初に獲れる鷹の中ではパワーのある直線番長だ。
長所を伸ばすか、ない物を補うか。
「既にニ十体以上の躯体獣の命を浴び、自分でも獲れるのではないかと思っています。お声がけを頂いたのも、縁に感じます。獲るつもりがなかったので、これから工夫をしなければなりません。宜しければ、もう暫く滞在をお許し下さい」
「ああ、いて欲しい」
ついでにひ孫にも獲らせたいのだろうけど。
器用度の高くない銀鷹なら、木の上から撃って、樹冠に突っ込ませてなんて考えていたのだけど、全くタイプが違う深淵鷹をどう獲ればいいのやら。
深淵鷹は流紋猫と同じ恫喝の絶叫を吐く。
猫より収束率が高くて、うるさいだけでなく痛い。
恫喝入り衝撃波と言った方がいい代物。
最初の一体に選ばなかった理由が、このダメージを受ける絶叫だったんだよね。
「さて、どうしたものか」
一家団欒の食事中にも、独り言ちてしまう。
「独りで考えてねえで、ここの人がどうやってるのか、聞いたらどうだ。普通はそんなコツなんぞ教えてくれないだろうが、今のお前になら教えてくれるんじゃないか」
「あ、そうか」
なんで俺は、他人の手伝いをしているのに、自分は一人でやらないといけないと思ってたんだろう。
一人で戦わないといけないけど、一人で行かなくてもいい。
躯体獣狩りの基本は、危なくなったら助けるだけど、それもそうしなけばならない決まりではない。
「何か、思い付いたか」
「お母、一発目の絶叫を避けそこなったら、撃っちゃって」
「よし、判った」
なんか、凄い安請け合いだ。
関係者を集めて説明する。
少し砦から離れた場所にいるので、一日に一羽しか戦えないものを、先手を取られたら将棋盤ひっくり返す。
取れるまでに時間がかかるかも知れないけど、みんな付いて来てくれると言った。
二珠入りの戦闘躯が八体と言うのは中層の攻略戦力としては過剰。
深淵鷹の生息地に着いたら、俺以外は生身で隠れて、お母の射程内で鷹の好物の縦角ウサギを探して獲る。
縦二本角のウサギは当然闘気弾を連射してくるが、これを獲れないようでは話にならない。
盾で弾いて、お返しに倍撃強射を打ち込んで倒す。
胸を開いたら、連射球が出た。出るのか。
吸収して、ウサギを仕舞わずにゆっくりしていると、気配が近づいて来る。
いくら音を立てないように飛んでも、そのつもりで動かないで索敵していれば判る。
気配が強くなった方向に、強打でウサギを蹴り付けて横に跳んだ。
金属音がしてウサギが消し飛ぶ。
下草の中を走りながら撃つ。数を撃つ為に、倍撃は乗せない。
四発当たって落ちたそれが、俺を見る。
「動くな!」
生まれて初めて、恫喝を攻撃に使った。
「ピっ!?」
一瞬動きが止まった。ただ驚いたのか、恫喝が効いたのか判らない。
頭だと躱されそうな気がして、喉元を撃ってから跳躍、銀の剣を首の付け根に突き刺し、銀のバックラーで横殴りに張り倒す。
剣を抜いて離れ、倍撃の強射を頭に撃ち込んだ。
足を振って放った断末魔の斬撃が、大気を斬って揺らし、生命力が解放された。
俺より重い鷹の胸を切って、深緑の球を取り出す。
言葉が出て来なくなって、黙ってみんなのいる方に差し出した。
「落とすなよ」
お父が言って、みんなが寄って来る。
胸の鎧を剥がして、球を押し付けると、入って行く。
体の中に、物が入る収納とは別の収納が出来て、深緑の鷹の頭の、裸の女が立っている。背中には深緑の翼。足の指には猛禽の鉤爪。
意識を戦闘躯に移すと、生身の体が収納されて、戦闘躯が現実空間に出る。
入れ替わる瞬間て、どうなってるんだろ。
ぼうっと立っていたら、お母が鎧を貼ってくれた。
「おめでとう御座る」
言ってくれたのは剛鷲殿だ。
【あ、ありがとう、ございます】
「そうでしょう、言葉が出て来ませんよね」
【はい、先ほどは、本当に言葉に詰まりました】
一頻り言祝がれた後、全員で変身して高速移動で帰った。
夕飯よりだいぶ早く帰れたので、守護将閣下に呼ばれて言祝がれた後、相談される。
「どうだ、其方がやってくれるなら、浅層に橋頭堡を設け、日に二体獲れるようにしたいが」
「はい、お願いします。躯体球が出ない事もあるでしょうから、多く獲れたほうが良いかと思われます」
「うむ、頼むぞ」
戦闘躯持ちが増えれば、定期討伐の危険度が下がる。
俺は次に行くために、少しでも多くの生命力を吸収しておきたい。
夕飯の時に家族に話す。
「そんな訳で、俺は明日から森住まいだ」
「じゃ、みんなで引っ越しだね」
「なんで。お母は明日一緒に行っても、ここに帰って来ればいいが」
「香嬉を連れて行かないのかい」
「行くが」
「耀蘭の面倒は誰が見るんだい」
「お母」
「何をわけの判らないことを言ってるんだい、この子は」
俺が悪いのか? 地球の常識が当てはまらない事があるのは承知しているが。
全員で橋頭保に引っ越しになった。
赤ん坊をそんなところで暮らさせて大丈夫なのかと聞いたら、吸収出来ない霊気は影響がないそうだ。
妊婦からずっと浅層に住まわせて、優秀な子が出来ないかの実験は、とっくに世界中でやって頓挫したらしい。
翌朝、橋頭保部隊と一緒に出て、橋頭保の位置を確認してから出発する。
大丈夫か、と香嬉に言ったら、大丈夫、耀蘭はあたしが守る、と返された。なんか違う。
今日は砦から出たので、一匹にしておく。
生息地でウサギを見つけたら、恫喝の咆哮をやってみた。
嘴じゃないから、絶叫は出来ない。
動くなと怒鳴ったら動かない。一発当てて倒せた。
深淵鷹は、恫喝の絶叫で楽な狩りをしているようだ。
胸を開いたが、ただの霊核だった。
血だけ流して、ウサギは仕舞ってしまう。
少し待っていると、気配を感じた。
絶叫の射程は判っているので、逃げる。
付いて来るので本気で逃げたら、絶叫を撃つ余裕がないようだ。
機動性は高いが、直線は速くない。
お母の処に引っ張って行ったら、一撃で撃墜されてしまった。
胸から取り出された深緑の球を融合して、お母の戦闘躯の背中に翼が生えた。
三球入りは自動的に中尉並。
帰りの時間に余裕があるので、果物を採集して帰った。
橋頭保に帰ったら、夕飯の支度をすると言って、香嬉は耀蘭を俺に渡した。
あたしじゃ泣くだろ、とお母が居直った。
翌日一羽目は、お父の火属性弾に顔半分を包まれて、木にぶつかって落ちた。
落ちてしまった鳥に、逆転の目はない。
理凰殿は物理的ダメージもそれなりにある水属性の闘気弾で、初撃で鷹を木に押し付け、中距離の射撃で余裕で勝った。
昨日より果物採集の時間が取れた。
「お父とお母はもう取る躯体球がないから、香嬉にウサギの連射を取らせたい。鷹なら落とせるようになるかもしれない。湧き出しの安全を図るなら、香嬉にも戦闘躯を持っていて欲しい」
「だから、耀蘭の面倒は誰が見るんだって」
「お母とお父」
「俺を入れるな」
中層に赤ん坊を連れて行っても、好影響も悪影響もない、との実験結果が既に出ていて、耀蘭も連れて行く事になった。
女子軍が母性本能を刺激されたのか、がっちり守ってくれる。
香嬉が戦闘する時には、理凰殿に渡す。
製造責任者出て来い!
剛鷲殿の初撃はそれだけで致命傷だった。
戦闘機に迫撃砲弾が当たったようなもの。二発で終わった。
最早落ちこぼれではない四人組も、元低能力でも初撃の不意打ちを外さなければ、生身で躯体獣を狩れる前例になった。
全員が終わるまでに香嬉はウサギの連射を取れて、深淵鷹を落とした。
小耳狼は無理だろうと思うので、やらせない。
武人なら何人かいたが、十二歳未満の職人で躯体獣を獲れたのは世界初。
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