第7話 上手くいく時には上手くいく

 帰って士官学校に連絡して日程の調整をしていると、佐官級の将校が三人来た。

 一番偉そうな人が遠慮がちに言う。


「猫の、引き寄せをしてくれると聞いたのだが」

「はい、致しますが、追って来るかどうか。来ても討伐者の処まで自分が逃げ切れるかも判りません」

「それでも良い。決して邪魔はせぬので、我等の身内も同行させてくれまいか」


 結局、子供が我儘を言い出さないように、階級が一番上の上佐殿まで付いて来る次第に相成った。

 大尉殿の娘は十七歳、上佐殿の孫が男で十六歳。後は少佐殿二人の息子と娘、どっちも十七歳。

 士官学校は二十歳の内に躯体を取れないと退学で、佐官の子は十九歳の内に取れないと自主退学が不文律だそうだ。

 十八で取れたら安心、十七余裕、十六大威張り。

 早く取れたらそれだけ次に行くための時間が増える。

 将官クラスの子は十九歳になるまでに獲ったら卒業し、上を目指すためにひたすら狩りをする。


 あまり大勢で行くと躯体獣が出て来ないので、露払いの下士官を含めて、十五人で流紋猫の生息地に向かった。

 いそうな場所で、餌にしている半樽ほどの羚羊を狩る。

 獲物を探している時にすでに、目を付けられている気がする。

 横着をしてこっちが狩るまで待っていて、倒したら威圧の咆哮を浴びせて来た。

 痛いのでなければ俺には効かないので、羚羊を収納して逃げる。

 

 走っている振りをして低空で跳んでも、追い付かれない。

 関係者が隠れている大木を通り過ぎた直後に、霊障壁に闘気弾が当たった爆発音が響いた。

 猫が俺を意識しないように、斜め上に跳んで、樹冠に隠れて戦いを見た。


 大尉殿の娘は俺と同じ風属性で、攻撃力が少し足りないように思えたが、正確な狙いで頭に攻撃を集中して倒し切った。

 切り開らかれた猫の胸から、テニスボールほどのオレンジ色の透明な球が取り出される。

 少しの間それを持って動かなかったが、立ち上がって俺を見た。


「ありました」

「おめでとう御座います」


 娘さんが掲げて見せると、俺以外が「おおおお!」っと吠えた。

 猛獣の群れか。

 周辺警戒の中で、胸に球を押し付けて吸収する。


「ゆきます」


 何処へ、なんて思ったら、娘さんが消えて、猫頭人身の戦闘躯に変わった。

 生まれたてなので、震えてはいないが全裸である。

 お母さんが、用意してあった革鎧をペタペタ貼って行く。


【この御恩、生涯忘れません】

「お役に立てて幸いで御座いました」


 やはり、額のトパーズ様の半球から音が出る。


「まだ、時間がある。今一人、願えるか」


 我儘を止める役の人が我儘を言う。

 当然、権力者の孫の順番である。


「はい、致しましょう」


 面倒くさいので、早く済ませたい。

 同じように獲物を探し、鹿を獲る。

 同じように咆哮を浴びながら逃げ、爆発音がする。

 権力者の孫は火属性なので、少し戦闘時間は短かった。

 娘さんよりちょっとごつい戦闘躯が現れた。

 全て女体でも、男女の差はあるようだ。


 保護者二人は仕事があるので抜けたが、翌日戦闘躯持ち二人が代わりに戦力として付いて来た。

 倒せるだけの力がなければ頼まないので、初撃を不意打ちで当てられたら倒せる。

 危なげなく一日で二人戦闘躯持ちになった。

 帰ったら、守護将閣下に呼ばれた。


「合力は、其方が躯体を得るまでは続けてくれると、思うて良いか」

「はい、お手伝い致します」

「得難き言葉である」


 他に言いようがないじゃん。

 取りに行って倒せなかったら大恥なので、士官学校は選抜戦をやっていてすぐには来ない。

 お父ならやれると思って誘ったら、狼頭が良いと言う。

 どんな我儘よ。

 横で聞いていたお母がやりたがる。

 軍に話したら、直ぐに護衛を出してくれた。


 遠射で的中のお母は、初撃で猫の目を撃ち抜き致命傷を与えて、二発で仕留めた。

 流石は鋼の翔鷹殿の母御よと、持ち上げられる。

 三日後、士官学校から、切羽詰まっている十九歳が四人、少将の孫娘の十六歳と、上将のひ孫(男)の十五歳がやって来た。

 順番は少将の孫、上将のひ孫、崖っぷち組になった。

 権力者に忖度している訳じゃなくて、崖っぷち組は少しでも生命力を浴びた方がいい。


 少将の孫は水属性で、射程、攻撃力とも中途半端なのだが、速射が出来るので手数が多く、見ていても危なげなく仕留めた。

 付いて来た女の従卒が、ぺたぺたと鎧を貼った。

 上将のひ孫は地属性で、威力はあるが射程が短い。

 初撃を前足に当てて動きを止めた後は、接近戦に持ち込んで、一撃が重い攻撃で短時間で仕留めた。


 二人とも、一族で協力できる事があれば、なんでも申し出てくれと言った。

 上将は東の砦の副将、少将は中央砦の守将なので、戦闘躯をカスタマイズするには世話になる。

 孫娘は理凰殿、ひ孫は剛鷲殿。将官の肉親が下士官に名乗るのは、過度とも言える誠意を示した事になる。


「早速ですが、お言葉に甘えさせて頂きます。父が狼頭になりたいと申しております」

「それは好都合。帰りましたら、直ちに手配致します」


 帰ったら剛鷲殿が明日にも行くような話を始めるので、崖っぷち組が焦る。

 それはないので、四人に取らせてからにする。

 水属性と地属性二人ずつ。全員女。筋力がないと僅かに動きが遅く不利なようだ。


 お父にも話して、またお引っ越し。

 崖っぷち組の取得にも、二人は付いて来てくれる。

 戦力は西の砦がいくらでも出してくれるのだけど。


「学校は、宜しいのですか」

「強くなるための学校なので、他人の躯体取りに付き合うのは、なまじの訓練に勝ります」

「では、このまま皆様で、小耳狼ショウジロウも獲ってしまわれては如何でしょうか。お好みに合いませんか」

「とんでもない! 合力下さるなら、存外の喜びです」


 残りの五人も、獲れるのもなら獲りたいと言ったが、四人は先ず猫を獲れないと話にならない。

 あと少しが届かなかっただけだったので、初撃を不意打ちで当てられたら、四人とも楽勝だった。

 無事に二日で全員取れて、自主退学を回避した。


 引っ越しは乗り合い動力車ではなく、都東砦から差し回しの兵員輸送車になった。

 着いたら、守護将閣下と、剛鷲殿の曽祖父の副将閣下にご挨拶する。

 もう、客将扱い。お母が少尉並なので、将校用宿舎に四人で泊めてもらったのだが、広さが佐官用だ。

 そんなに立て続けに取れるものでもないので、お父、お母、理凰殿、剛鷲殿、四人組の順にするが、生命力を浴びるために全員で行く。

 耳の小さいオオカミを見つけたら、逃げて来るだけのお仕事です。

 恫喝の咆哮ではなく、威圧の咆哮を吐くのだけれど、どう違うか判らない。

 横から撃てばお父が勝てないはずもなく、犬頭の女が出現した。

 TSしたケモノ頭の父親の裸とか、こんなにいらないものもないな。


 頭が狼じゃなくて、焦げ茶一色の柴犬。美濃柴の濃いの。

 本人は自分の顔が見えないので、周りがなんで笑いを堪えているのか判らない。

 まあ、取れたので良しとしよう。

 お母はまた一撃で勝負を決め、二発目で止めを刺した。

 変えたくなければ変えなくてもいいのだけど、足の指を狼に変えて少し大きくして安定性を良くした。


 翌日午前の部は従卒から姫様と呼ばれている理凰殿。

 お母と同じに片目を潰してから、死角から責め立てて危なげなく勝った。

 猫足のまま弄らないが、ちょっと筋肉質になった。

 剛鷲殿は波紋猫の時と同じ、前足を撃って動きを止め、攻撃力で削り取った。


 改めて剛鷲殿の曽祖父閣下と母上にお礼を言われた。

 剛鷲殿のところは離婚型の母子家庭だった。

 父親だった人が、剛鷲殿が武人としては小さいので自分の子ではないような気がすると言い出して、別れてしまった。

 話す必要はない事だが、緊張していて、昨日教えられた。

 

「何があろうと、あの男より強くならねばならないのです」


 弱い子の親でありたくない、そんな人だっだらしい。

 名門には名声に見合った重圧や苦悩があるのだろう。

 いい加減な庶民の子で良かった。

 四人組も無事に二つ目を取り、胸を張って卒業出来るようになった。

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