第5話 既にひとかどの者
跳狼がいる浅層奥の獲物を獲るより、安全に数を獲れるものの方が経験値を増やし易い。
神殿の錬成師の子は、このレベルの素材は解体しか出来ないが、それでも通常より修行になると喜んでくれた。
香嬉は俺の精気を受けているので、なめし皮に出来る。
精気を他の子に分けて欲しいと言われて、金はあるので、寝る前に五人に分けている。
余った精気は一晩中垂れ流しなのだけど、一緒に寝るのは香嬉一人がいい。
準備を整えて、跳狼のいる一つ西の砦に行った。
香嬉は付いて来てくれる。
俺も兵長並なので、二人住める軍の長屋が一部屋借りられる。
香嬉と一緒に住んで、素材を渡して錬成の修行をさせる。
他に出来る事を増やすと言って、料理を習い始めた。
料理は材料と調味料の量、加熱時間を間違えなければ、変なものは出来ない。
きっちり分量を測れる錬成系の職人が失敗するはずは、ない、よね。
引っ越した翌日、早速森に入った。
三人で木の枝を跳んで移動する。
出会った猿は撃ち落とす。
走射持ちの俺は、跳んで空中にいる間に射撃が出来る。
目指すは浅層奥、地上には一樽(一トン)物の鹿などや、それを狩る肉食獣系の魔物の群れがいる。
イヌ科なのに枝の間を跳び回る跳狼がいる所為で、樹上にネコ科とサルがいない。
果物は鳥の餌になっているが、猿がいる場所より多く採れる。
跳狼の見た目は狼顔の熊だ。前からだと尻尾が見えない。
一本の木の枝に四つ足を乗せて止まっている姿は可愛いのだが、討たねばならぬ。慈悲はない。
見付けたら、俺だけ横に跳び、空中で闘気弾を撃つ。
当たる必要はない。攻撃の意思を示しただけ。
別の枝に着地して、前に跳んだ。
跳狼は距離を詰めずに、口を開いた。
うるさいだけの咆哮を浴びながら、口の中に倍撃を乗せて撃つと、後ろに半回転して頭から落ちた。
射程内なので、移動せずに二発撃って仕留めた。
胸を開いたが、透明な霊核があっただけ。
「まあ、技能球としては出易いと言っても、五分の一だからな」
声に出して言う必要もないが。
もう一匹獲ったが、出なかった。
跳狼は神殿の十五歳以下の子では解体も出来ないので、軍に卸す。
来て直ぐに二匹獲ったのを驚かれた。
翌日の二匹目で、琥珀色の技能球が出た。
次の日からは俺が近づいて、お母の射程まで逃げて来て撃たせた。
同じ空蹴持ちになれば、俺の方が狼より速い。
やはり、四匹目で出る。お父は五匹目だった。
空蹴は一つしか入らないので、翌日は地上の狼と、イノシシを獲った。
食性が人間と競合するイノシシは、積極的に人間を襲う。
途中で狩った羚羊や鳥の肉の方が口に合うので、イノシシは売ってしまう。
イノシシと狼を軍に出すと、跳狼は諦めたのかと聞かれた。
「いえ、三人とも空蹴取れたんで」
「もう、ですか」
「二匹早いだけじゃないですか」
跳狼を獲りに来ているのは知っていたけど、毎日同じ人じゃなかったので、何匹獲ったかは知らなかった。
三人空蹴取れたのを軍に報告すると、下士官並になった。
俺は徒士並、両親は勤務年数があるので上徒士並になれた。
空跳取りの為に、三ヶ月浅層奥で修行をするつもりだったのだが、お母が孕んだ。
普通の狩りなら三ヶ月くらいは出来るのだが、跳び回るのは止めておいた方がいい。
安全を考えて、浅層の半ばにしておく。
三人とも魔物の討伐量が並みではないので、三年は下士官並の身分を保てる。
三日半ばの素材を納めたら、俺だけでもと浅層奥の討伐隊の助力を依頼された。
空跳取りには、その方が都合がいいので受ける。
加わった中隊の隊長は少佐で、戦闘躯は中層奥物。
「佐官の子なら下士官養成所に入る前に空蹴を取るが、空跳は大概入ってからだ。
「八歳の時に猿から恫喝が取れました。全くの運です」
「猿から恫喝が出るのは運だが、八歳で猿を単独討伐出来るのは、運ではない。両親も恫喝持ちか」
「いえ、俺がおびき寄せて、横から撃たせました」
「なんと、其方は跳狼が追ってくるのか」
「はい。子供だと思って舐められています」
「この砦に
「浅層奥に連れて来て貰えるなら、こちらも好都合です」
「善き哉」
下士官の身内では跳狼を狩るだけの攻撃力がなく、対象は将校の身内になった。少佐殿の孫もいた。
貢献度で上徒士並にしてもらった。
お母が出産するまでは心配を掛けないように、空跳を取らないつもりだったが、黙って取ってしまえば心配も何もないと言われて、三月後に二樽ある縦に二本角の生えた馬に挑んだ。
変身しなくても縦角馬を倒せる尉官が三人、付いて来てくれた。
情けは人の為ならず。
輓馬より一回り大きい馬体。二本の角から闘気弾の連射。
これを獲れて、戦闘躯持ちへのスタートライン。
空跳が出来るからと言っても、常に飛んでいる訳ではない。
生息地では自分を襲う者はいないと思って、のんびり草を食んでいるところに行って、木の枝の上から一撃。
怒って跳び上がり、上から踏みつけようとした巨体の腹に滑り込み、股間を撃った。
敏捷性が機敏の上の鋭敏に育った俺は、馬より速い。
ギョエエエ! なんて、馬とは思えない悲鳴を上げて落ちた巨体に、情け容赦なく倍撃の闘気弾を動かなくなるまで浴びせた。
接近戦で突いたり斬ったりすればもっと早く仕留められたのだろうけど、俺の防御力に不安があった。
確率は四分の一だが、出たのは三頭目だった。
尉官殿が寄って来て言祝いでくれた。
「おめでとう御座る」
「有難う御座います。もう一匹獲って、追って来るか試したいのですが」
「それでは、子の助力をしてくれるのか」
「はい、両親ではもう危険です。むしろ、お願いする側かと思います」
「いや、助かる」
空跳持ちで徒士長並、貢献度で徒士頭並にしてもらった。
三十年軍に勤めると古徒士頭になれるが、戦闘躯がないと尉官にはなれない。
お母が出産するまで、空跳取りを手伝った。
完全に自力で取る必要はない。
安全に、低年齢で取れるならそれに越したことはない。
砦の子で縦角馬に挑む者は、それほどいなかった。
縦角馬は、空蹴を持っていれば獲れるものでもない。
砦の子の該当者がいなくなると、下士官養成所からやって来た。
普通は入ってから取る。
下士官ならばノルマの危険は変わらないので、お父にも獲らせた。
体を動かしていないと鈍ると、お母が浅層入り口付近で狩りをするので、お父に護衛を頼み、香嬉に三角牛の角を持たせて、取れそうな球を取らせた。
ずっと俺の精気を吸っているので、中層の素材の鎧も装着出来る。
砦の年齢的に出遅れて力を付けて来た子に
「もう、空蹴取りの合力はして頂けないのですか」
と聞かれた。
空跳が入ったら、狼は逃げはしないが襲ってこない。
出来れば香嬉にも空蹴を取らせたい。
犬って逃げると追っかけて来るよな。
ちょっと試してみると言ったら、無駄足になってもいいからと、付いて来た。
狼の前で、どこにでもいるネズミを獲って逃げたら、追っかけて来た。
横から撃たれて落ちる。
そこから先は本人の実力次第。
お母が産み月になって狩りを止めたので、香嬉にも空蹴を取らせた。
この年で職人で持っているのはいない。
中層奥の素材を加工出来るようになった。
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