第4話 非凡への道
香嬉が九歳になったので、精気受けを頼んだ。
スズメを持って行った時から気に入っていたからね。
九歳になる前に強斬が取れて、強撃が倍撃になった。
順調に俺は育ってはいるのだけど、射撃型前衛としては、跳躍が欲しい。
お父に相談した。
「もう二十桶までの獲物なら獲れる。リスに拘る必要はないんだ。山羊や羚羊なら、跳躍出すのがなんかいるだろ」
「三角鹿だな。たまに角に射撃が入るんだが、霊核は技能球になる」
頭に曲がった円錐の角が二本、額に真っすぐな円錐の角が一本生えている十五桶を少し越すのが標準の鹿だそうだ。
同じような見た目の鹿と羚羊の違いは、肉の味。鹿と牛なんだから明らかに違う。
「絶対角に射撃が入ってるだろ」
「それなら良い値で売れる」
「そっちが狙いだろ」
欲深い親に連れられて、森の少し奥に行く。童話だったら怖い事になる。
出て来た三角鹿は俺が倒す。
闘気弾の射程は同じだが、向こうは固定砲台で、俺は走りながら撃てる。
威力も俺の方が上なので、動きを止めてしまえば一方的な狩りになる。
そして、二匹目の額の比較的小さな円錐の角には、射撃が入っていた。
「なんでだよ、欲しがるものは出ないんじゃないのか」
「お前は欲しがってなかったろ」
更に二匹獲ったが、ただの透明な霊核しか出なかった。
皮は今付けている羚羊革より少し防御力が高く、風合いも良いのだが作り替えるほどでもない。
角は大人の武器職人に、頭蓋骨を柄にして手槍に仕立ててもらった。
霊力量が装備条件に合えば、誰でも闘気弾が撃てて、なかなか手に入らない物なので、職人や文人と交渉する時に役に立つかもしれないので売らなかった。
作った職人が、素材取りの護身用に欲しいと言った。
技能で血抜きをするので、鹿肉も旨い。
九歳になるまで三角鹿を獲ったが、跳躍球も射撃入りの角も出なかった。
明らかに自分より防御力の高いものを獲っているせいか、防御が育った。
それを八歳で一人で獲れていたのも、雑兵の子としては先ずないほど凄いのだけれど。
「焦ることはないよ。八歳で倍撃までに育てられるのは、将校の子とかだよ」
お母は孕んでもこのまま三人で狩りをすれば、臨月でも今の狩場なら行ける。
必要以上に慎重に狩りをしなくても良いので、今までとは段違いに稼げている。
十歳になるまでは、両親と狩りを続けてもいいかなと思う。
もうそろそろ孕みそうで、妊娠期間は半年の五ヶ月。
そんな気持ちで、行きがけにリスを獲ったら、跳躍が出た。
軍には能力が上がったのを報告しておく。実力があると階級が上がる。
並の付く階級は普段はどうでもいいけど、何かの時に融通が利く。
俺は上兵並になった。
「三人跳躍持ちになったんで、猿の駆除を頼まれたんだが」
お父が嫌な顔をして言う。やりたくないんだな。
「あたしが孕んでりゃ、やらされないんだけどね」
弱い猿は、上位のあからさまに強い武人が行けば逃げる。
弱く見えて負ける恐れのない我が家は最適解。
「西側で弱い猿の数が増えて、増長してやがる。俺達くらいの狩り手の猟場が奪われそうなんだ」
「それはもう、やらないと駄目なんでしょ」
「ま、そうだな」
我々三人だけでやらされる訳ではなく、まだ若く見える小隊長の中尉に率いられて、二十人で向かう。
猿の名は跳び猿。忍者じゃない。
名前の通り枝の間を跳び回り、跳躍を出す。
大きな群れなら一樽(一トン)越えの羚羊や鹿さえ狩るので、技能球取りの対象にはしない。
「良いか、見付けたら攻撃しながら引く。一度で群れを殲滅する必要はない。数を減らせられれば良い。不測の事態が起きた場合は、情報の持ち帰りを優先して逃げろ」
小隊長の指示は、異様にホワイトだった。そうじゃなかったら、傭兵的な雑兵なんて、現場に来る前に逃げちゃうからね。
全体で一つの群れではなく、三、四十匹の群れが幾つかなので、各個撃破して行く。
お母の他に遠射持ちが二人いて、俺の攻撃範囲に入る前に十匹以上間引かれる。
火属性の攻撃範囲までに二十匹は落ちる。
四十匹の群れが闘気弾だけで殲滅された。
「気を引き締める必要があるな。容易過ぎる」
小隊長殿のおっしゃることは尤もである。
もう一つ群れを見つけて、一方的に殲滅した。
跳躍が二つ出た。誰が獲ったのかは球を触ると判る。一つは俺のだった。
跳躍は育ち切っていなければ、最大五つ吸収出来る。
翌日も四十未満と四十の群れを潰し、跳躍は火属性の人が一つ取れた。
小隊長殿がちょっと考え事をしている。
「猿が多過ぎるので出易くなっているのか。水属性、地属性の為に、十二、三通すか」
四百以上の猿を狩り、討伐戦は無事に終了した。
俺がもう一つ、火属性が二人、水属性が三人、地属性が二人跳躍を得た。
「お前がもう出なくていいと思ってるから、いっぱい出たんじゃないか」
なんて、既に育ち切っていたお母に言われた。
軍の正式の依頼だったため、俺は実力考慮で兵長並、お父とお母は兵頭並になった。
討伐隊を率いた中尉殿に、軍への入隊を打診された。
「そちほどの逸材が、市井の討伐人として一生を終わるのは、国家の損失である」
「下士官養成所も十二歳からと聞いていますが」
「ああ、それまでに上位の武人の子であれば、親から人並み以上になる教育を受ける。今はそれに匹敵する力があるが、このまま両親とともに暮らせば、市井では名のある者、程度にしかなれないぞ」
「それでは、いけませんか」
「戦闘躯を得たいとは、思わないか」
二歩ほど俺から離れた中尉殿から力が溢れ、精悍なオオヤマネコの頭に鎧を着た人身の姿に変わる。
話だけは聞いていた戦闘用の体、戦闘躯。
【この姿を見て、ときめかないか】
口からの声ではなく、額の琥珀色の半球の宝玉から音が出ている。
「そのお姿を、お見せ下さるとは」
【感じたようだな】
中尉殿が人間に戻る。
「我のものは一番下の中層体に過ぎない。更に上に三体あるのだぞ。常人以上の者になる気はないか」
「なりたいと、思います」
「であろう。なれば、この場に安住してはならない」
「どうすれば、よいのでしょう」
「常に己を磨き、先を目指す。それが出来る者と見た。まず、空蹴を取れ。それから空跳だ。空中戦闘が出来なければ、躯体獣には勝てない」
普通の猟師なら空中を五、六歩跳べる空蹴を持っていたら大威張りなんだけど。
霊気がある限り空中を跳べる空跳なんて、将校の技能で、漁師の持つものじゃない。
しかし、お父もお母も反対しなかった。
「お前は普通の子じゃないと思っていたからね」
「翔鷹なんて、気取った名前付けちまったが、翔鷲でもよかったかもな。俺達の行けない高みに飛んで行け」
寿命が百年以上あるこの世界では、最初の子は大概親から離れて暮らす。血を濃くしないためか。
戦闘躯の素、躯体球を出す魔物は、弱いものでも鳥以外は全て空蹴持ちで、普通の空蹴持ちより強い。
立体機動で上回れる空跳がないと、生身では勝ち目がない。
中尉殿が根回しをしていてくれて、空蹴の取れる魔物の情報を、砦の守備軍から貰えた。
山羊、羚羊、鹿、イノシシ、大型の犬猫(犬は狼だけど)、走鳥と呼ばれている恐鳥類。
防御が低くて敏捷性が高いのが走鳥。
見た目はほぼ恐鳥だけど、地球のと違って、少し飛べる。
この中では敏捷性が低くて防御が高いのがイノシシ。
山羊、羚羊、鹿、イノシシは打撃と射撃、犬猫は咆哮と斬撃。
走鳥は咆哮の範囲を狭くして射程を伸ばした絶叫と斬撃。
相性、なんて判らない。
「狼の咆哮は恫喝か威圧だけだぜ。お前にはうるさいだけだ」
「恫喝取れててよかったじゃないか」
何が幸いするか判らない。幸いなのか。
恫喝と威圧は、殴るのと強く押し付けるのくらいの違いで、どちらでも持っていれば両方に耐性が付く。
少し奥の半樽(五百キロ)の鹿と羚羊を獲って、討伐のノルマの先払いをし、基礎能力を上げた。
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