26
ランベルトは、と視線を巡らせると、少し離れた場所で黙々と食事をしている。こんな時に、よく食べられるものだ。
「食べないの?」
フェルディナンドは、コーネリアの足元にある木皿を示した。
「できるだけ食べておいた方がいい。テルラーダまでは長いし、体力がないと病になる恐れもあるから」
「……わかってる。ちゃんと食べるわ」
返事をしながら、今しがたランベルトに抱いた愚かな考えを悔やんだ。
旅の間は病になるのが一番怖い。ここには侍医はいないし、王女であるコーネリアが病に臥せれば皆に迷惑がかかる。なにより、民を無事テルラーダへ送り届けなければならないのだ。確かに、見張りの交代で食事する騎士も、流し込むように食事を摂っていたのを思い返した。
――馬車でしか行ったことのないようなあんたになにができる。
できない。火を熾すための枯れ木を探すことも、食事の支度をする女たちに混じることも、途中の水場で水を汲む知恵すらなかった。
なんて無力な――。
「ん? なにか言った?」
「ううん」
まるで心の声が聞こえたように首をかしげるフェルディナンドに首を振った。
「ねえ。ドラゴンが二頭いたって、知ってた?」
「いや。ぼくも今日知ったところだ」
「あんな恐ろしい獣が何頭もいるなんて知らなかったわ。西の果てにあいつらのいるところがあるんでしょう? どうして今まで知らなかったのかしら。国をたった二頭で滅ぼしたのよ。そんな巨大な力を持っているなら、何百何千人と兵を出して戦をする必要なんてないでしょう? なのにどうして彼らは力を誇示しないのかしら」
「あるいはもっと西へ行けば、ドラゴンが支配している国があるのかも知れない。テルラーダはフリーデンから西の方角にある。ドラゴンの飛行通路で、同じように破壊された国があるかどうか、それも確かめるべきだろう」
「そうよね」
朱い火がパチンと爆ぜ、薪が崩れた。
長い旅になるだろう。
待ってて、エルマー。必ず、必ず助けに行くから。
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