25

 ねえ、と隣の女に尋ねると、荷車に乗っていた全員が大きく頷く。

 コーネリアは、近くを馬で歩いているフェルディナンドに視線を送った。

 それを受けたフェルディナンドが小さく頷く。


「最初は雨でも降るのかと思いました。急に日が陰って……。空を見たら、そりゃあ大きくて赤い化け物がいて」

「黒いのは真っ直ぐお城に向かって行って……。それからはもう、なにがなんだか……」


 赤いドラゴン――。

 知らなかった。もう一頭がいたなんて。

 一頭は街を壊滅させ、あの男が操る黒いドラゴンは城を破壊した。仲間がいたのだ。

 よかった。知らずにいたら、敵を見過ごすところだった。


「コーネリア様。どうかこの子に祝福を」

「わたしが?」

「お願いします。この子にも、コーネリア様のような強運に恵まれますように」

「強運……。そうね。あの襲撃から生き延びたんですもの。でもそれはあなたたちも同じよ。わたしたちには女神リンデルがついている。必ず、皆でフリーデンに帰りましょう」


 凜とした声に、女たちは新しい涙を流しながら頷いた。


「祝福を。女神リンデルと守護狼がミゲルを護ってくれますように」


 赤ん坊の額に唇を当てながら、コーネリアもまた、女神リンデルの加護を祈った。

 森と共に生きてきたフリーデンの民は、野宿にも長けていた。

 火を熾し、獣除けの薬草を撒く。堅パンと乾酪に干し肉、長期保存に耐える野菜はスープになった。当分の間はこれがご馳走になる。

 皆で毛布を分け合い、くっついて温め合う。それでもこの季節の夜は冷え込む。

 倒木に座り火の近くで毛布にくるまっていると、フェルディナンドが干した林檎や杏などを入れて温めたワインを持って来た。


「ありがとう」


 受け取りながら場所を空ける。

 いつだっていい香りのするフェルディナンドは、埃と汗の匂いがした。

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