24
テルラーダへの道程は馬で四日。だが多くの馬は炎に呑まれ、人数分の馬を用意することはできなかった。食料や怪我人を運ぶための荷車をかき集めた。ほとんどの者は徒歩で向かうため、国を追われた大移動はひと月ほどを要した。
原型もわからないほど焼け融けた街の間を荷馬車が行く。
誰もが涙し、この有様を忘れまいと目を凝らし唇を噛んだ。
葉を落とした梢の隙間からは灰白の空が見え、北の国から飛んできた渡り鳥が、早く雪を降らせよと鳴いて乞う。
始めのうちは馬に乗っていたコーネリアだったが、途中で足腰の弱い老人に譲り、自分は近くを走っていた荷車に飛び乗った。荷車は藁を敷き詰め、女たちだけが乗っている。コーネリアは、荷車で赤ん坊を抱いた女の隣に座った。
「名前は?」
「ミゲルです。本当はロニーって名前だったんですけど、ミゲルは死んだこの子の父親の名前で……」
母親が涙ぐむ。
丸丸とした赤ん坊だった。荷車に揺られながら、機嫌よくなにかを喋っている。
「抱いても?」
「もちろんです」
鼻を啜った母親から赤ん坊を受け取って、その胸に抱いた。ずしりと重い。
「……すまない。この子の帰る場所をなくしてしまった」
「まあ、なにをおっしゃいます、コーネリア様! あれはコーネリア様のせいではありません」
そうですとも、と同じ荷車に乗っている女たちも口を揃える。
「恐ろしい。あんな恐ろしいものがこの世にいたなんて……」
「これは天罰なのかねえ」
「こら。滅多なことを言うもんじゃないよ」
「だってあんた。そうじゃなかったら、どうしてあんなドラゴンが二頭も襲ってくるんだい」
「え? 待って。二頭? ドラゴンは一頭じゃなかったの?」
「いいえ。二頭いました」
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