23

 別の騎士が戸惑いながら口を開くと、隣のバルトサールが片手で押し留めて口を開いた。


「わかりました。ご一緒いたしましょう。確かに、ドラゴンの使い手というその男の顔をご存じなのは王女殿下のみ。ただし、もう無理だとお思いになられたら、すぐにテルラーダに引き返してください。この旅がどんなものになるかわかりません。フリーデン国を再建するためにも、王女殿下は必要不可欠な存在なのですから」


 他の三人の騎士は困惑した顔つきで唇を閉じたり開いたり、顔を見合わせたりしたが、副団長の決断は絶対だ。


「ありがとう!」


 騎士たちは、今一度国王の墓の前でこうべを垂れ、礼を尽くすと立ち去った。

 コーネリアの赤い髪に風がまとわりつく。

 この季節には、森の木々と脱穀する麦の匂いが運ばれてくるのだが、今は燻すような煙に混じって、錆びた鉄のような臭いがしてくる。


「フリーデンの再建なんて叶うのかしら」

「コーネリア」

「すべて消えてしまった。街も村も民も。民のいない国なんて意味を成さないわ。残ったのは巨大な墓地だけ」


 いつもどこからか陽気な音楽が聞こえてきた。パンの焼ける匂い。牛や羊たちの声。賑わう街道。明るく活気に満ちた街。

 それなのに、今見える風景はまったく真逆のものだ。建物は崩れ、焼け、多くの民がその下に埋もれている。街そのものが墓石のように。


「コーネリア。それでも、きみはフリーデン国の血族だ。きみがいる限りフリーデンは滅びない。民はいる。ここに眠っている多くの民は、間違いなくフリーデン国の民だ」


 フェルディナンドの言葉は胸に沁みた。


「そう……。そうね。わたしにはこの国の責任がある。ここに眠る人たちの命の責任が」


 流れ落ちる涙を袖口でぐいっと拭うと、震える唇で大きく息を吸った。


「泣いてる場合じゃないわね。皆をテルラーダへ送ったら、すぐに西へ向かいましょう」

「ああ。西へ」


 森の緑を写し取ったようなコーネリアの瞳が、遠く西の空を見やる。

 空は高く、白い雲がゆったりと流れていた。

 この空のどこかにエルマーは生きている。

 必ず助ける。そしてあの男に、すべての命の代価を払わせるのだ。

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