13

「違う」


 皺の溝に涙を伝わせる老女に、コーネリアは静かに告げた。


「わたしもどうして生き残ったのがわたしなのかと思う。答えなんか出ない。でも、少なくともわたしはなにもできないんじゃない。家族と、皆と共に過ごしたした日々を思い出せるのはわたしだけなの。わたしだけが家族を悼むことができるの。あなたもそうでしょう?」


 老女の顔を見つめると、老女はどうと泣き崩れながらしきりにうなづいた。

 隣に座っていた女も泣きながら老女の背中をさすっている。

 コーネリアは全員の顔を見渡した。


「皆もどうかそれだけは覚えておいて。わたしたちは生きるの。生きてわたしたちにしかできないことをするのよ」


 それは自身に言い聞かせる言葉でもあった。

 今朝早く、コーネリアは父王の執務室へ行った。そこから街が一望できるからだ。

 まるで悪夢を見ているようだった。建物は崩れ落ち、あるいは燃やされ、いたる所から未だ白い煙がくすぶり続けている。圧倒的な暴力。なぜ、と誰も答えることのできない疑問だけが、頭の中をぐるぐると巡っている。

 いくら考えても出ない答えを待ち続けることはできない。

 フリーデン王家で生き残ったのはエルダーと自分。エルダーがいない今、民を導くのは自分しかいないのだ。


「なんですって?」


 テルラーダへ遣わした使者、騎士ミュラーがもたらした報告は苦しいものだった。


「はい。テルラーダは城が一番激しく崩壊しており、街も城に近いところが攻撃に遭ったようです」

「王は? ヘンリック殿下は?!」

「王家の皆様はご無事です。ヘンリック王子殿下も軽い負傷だけで、今は民を救い出すために奔走しておいでです」

「エルマーのことは……」

「お気持ちはすぐにでも救出に向かいたいのでしょうが、まずは自国の民を救い出さねばならぬと……」


 コーネリアは拳を握りしめた。

 ヘンリックの選択は正しい。ヘンリックは次期国王だ。最優先にすべきは自国の民。婚約者と言えど……時期王妃となる身ならばなおのこと、民を一番に考えなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る