11
「滅びていない……」
「そうだ。落ち着いたらテルラーダに使者を立てよう。きっとエルマー様を助け出す手を貸してくれる。だからきみは自分のことだけを考えて。いいね?」
愚かなわたしのことを、フェルディナンドはそれでいいんだと言ってくれる。
「さあ。もう少し休んで。顔色が悪い。どこか痛いとか苦しいところは?」
コーネリアは首を振った。
「そう。今夜はぼくとランベルトが部屋の外にいるから」
毛布を掛け直したフェルディナンドは、コーネリアの額に唇を寄せた。
「おやすみ、コーネリア」
ゆっくりと唇を離したフェルディナンドは、ふわりと笑みを残して部屋を出て行った。
毛布を手繰り寄せ、身体を丸める。
暖炉で薪の爆ぜる音がする。温かい。
けれども温かいと感じることさえ、後ろめたい気持ちになる。
目を瞑れば、浮かんでくるのは愛する人たちの顔だ。お父様、お母様、ヘルマンお兄様、ダニエルお兄様、可愛いアルフォンス。口煩かったけど誰よりもわたしを気遣い愛してくれた
とめどなくシーツに涙を吸い取らせていると、今度はあの男の顔が浮かんでくる。
男が言うように、ちょっと遊びにでも来たような気安さだった。
理由などない。ここにフリーデンがあったから。
目障りだったのかも知れない。祝福の鐘の音が気に障ったのかも知れない。
男は気紛れにドラゴンを操り、炎と鋼の翼で街を、人々を滅ぼしていった。
赦さない。赦すものか。
コーネリアは奥歯を噛みしめた。
今までに感じたことのないどす黒い感情が、うねうねと胸の奥底から這い出してくる。
すぐにでもあの男を捜し出し、剣を突き立ててやりたい。
コーネリアはその手に剣があるかのように両手を握りしめ、震える唇を引き結んだ。
部屋の隅に降り積もった闇をじっと見つめながら、まんじりともせず、夜は更けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます