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「滅びていない……」

「そうだ。落ち着いたらテルラーダに使者を立てよう。きっとエルマー様を助け出す手を貸してくれる。だからきみは自分のことだけを考えて。いいね?」


 愚かなわたしのことを、フェルディナンドはそれでいいんだと言ってくれる。


「さあ。もう少し休んで。顔色が悪い。どこか痛いとか苦しいところは?」


 コーネリアは首を振った。


「そう。今夜はぼくとランベルトが部屋の外にいるから」


 毛布を掛け直したフェルディナンドは、コーネリアの額に唇を寄せた。


「おやすみ、コーネリア」


 ゆっくりと唇を離したフェルディナンドは、ふわりと笑みを残して部屋を出て行った。

 毛布を手繰り寄せ、身体を丸める。

 暖炉で薪の爆ぜる音がする。温かい。

 けれども温かいと感じることさえ、後ろめたい気持ちになる。

 目を瞑れば、浮かんでくるのは愛する人たちの顔だ。お父様、お母様、ヘルマンお兄様、ダニエルお兄様、可愛いアルフォンス。口煩かったけど誰よりもわたしを気遣い愛してくれた乳母ナニー。トーマスにたくさんの衛士たち。

 とめどなくシーツに涙を吸い取らせていると、今度はあの男の顔が浮かんでくる。

 男が言うように、ちょっと遊びにでも来たような気安さだった。

 理由などない。ここにフリーデンがあったから。

 目障りだったのかも知れない。祝福の鐘の音が気に障ったのかも知れない。

 男は気紛れにドラゴンを操り、炎と鋼の翼で街を、人々を滅ぼしていった。

 赦さない。赦すものか。

 コーネリアは奥歯を噛みしめた。

 今までに感じたことのないどす黒い感情が、うねうねと胸の奥底から這い出してくる。

 すぐにでもあの男を捜し出し、剣を突き立ててやりたい。

 コーネリアはその手に剣があるかのように両手を握りしめ、震える唇を引き結んだ。

 部屋の隅に降り積もった闇をじっと見つめながら、まんじりともせず、夜は更けていく。

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