10

 ごほごほと咳き込んでいると、フェルディナンドが戻って来た。


「コーネリア!」


 案の定、血相を変えて駆け寄ってくる。


「だ、いじょうぶ。お酒のせいだから」

「そう。よかった」


 胸を撫で下ろしたフェルディナンドは、コーネリアの手からグラスを受け取ると、ランベルトを見た。


「今城の中を確認しているところだが、無事だった者たちを広間に集めている。もうじき日が暮れる。今夜は空いている部屋に手分けして寝るそうだ。明日は市井を回って無事な者たちを城に集めてほしい。食料も街中からかき集める。城の備蓄と合わせれば、しばらくは困らないだろう」

「わかりました。副団長に伝えます」

「ああ、頼む」


 市井。ああ、そうだ。わたしはなんと愚かな……。


「フェルディナンド! あなたの家族は……」


 振り返り、コーネリアを見たフェルディナンドはやわらかく笑んだ。


「わからない。それも明日見てくるよ」

「だめよ! ここはいいからすぐに行って!」

「いいんだ」


 フェルディナンドはゆるく首を振った。


「街はここよりも酷いことになっている。火の手も上がり、ほとんどの家はドラゴンに吹き飛ばされたか、まるでバターのように溶けている」


 絶句した。自分のことばかり考えていた。攫われたエルマーと殺された家族のことで頭がいっぱいで、わたしを心配してくれるフェルディナンドや、養い親のいるランベルトのことに考えも及ばなかった。それに街の人たちのことも。エルマーを祝福するために集まってくれた人たち。彼らも等しく被害者なのに――。


「わたしはなんて……」


 ばかなんだろう。

 コーネリアは両手で顔を覆った。

 フェルディナンドがやさしく背中を撫でてくれる。


「いいんだ、コーネリア。きみが無事であることこそが、この国が生き残った証なんだから。フリーデン王国は滅びていない。きみが生きている限り」

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