09

「わからない……。見たこともない服を着た男が入って来た」

「男?」


 フェルディナンドとランベルトが同時に口を開いた。


「ムサファーと言っていた。鐘が……、塔の鐘の音が聞こえたからと言っていた。あの男がエルマーをつかんで、その後ドラゴンが現れて……」

「ドラゴンの使い手か?」


 コーネリアは大きく首を振った。その拍子にぐわんと眩暈に襲われ、思わず床に手をついた。ぐるぐると床が回っている。


「わか、らない。風が強くて……」


 ――たまたま通りかかっただけだ。ちょっと寄り道してみたのだ。理由などない。


「話は後にしよう。どこかで少し休もう。コーネリア、立てる?」


 頭がガンガンした。フェルディナンドの支えで、どうにか立ち上がったんだと思う。

 その後、ふわりと身体が浮くのを感じた。


「ランベルト、薬を。あと気つけ用にプラム酒を」


 その後のことは覚えていない。

 目が覚めると、あたたかい毛布に包まれた寝台だった。

 なんだ、夢か。そう錯覚してしまうほど、柔らかな寝台の上だった。


「コーネリア様」


 けれど見覚えのない天井も、部屋の造りも自分の部屋ではなかったし、「ランベルト」久しぶりに聞いた声もそれを否定していた。


「ここは……」

「侍女の部屋です。お待ちください」


 背を向けたランベルトは、すぐに黄金色の液体を入れたグラスを持ってくる。


「少し起きられますか?」


 小さくうなづいたコーネリアの背中に、もう一つ枕を差し入れる。


「これを……」


 唇に押し当てられたグラスの液体を、コーネリアは一気に喉に流し込んだ。

 かあっと胃の腑が熱くなり、思わず咳き込む。


「大丈夫ですか」


 けれどもおかげで身体が温まった。

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