08

「ランベルト!」

「おお、無事だったか!」


 野太い声がして、騎士団の制服を纏った四人の内三人の男たちが駆け寄って来た。残る一人はこちらを見て、胸に手を当て礼だけを取る。


「コーネリア王女殿下。フェルディナンド殿もご無事であったか」

「他の方々は……」


 ランベルトが首を横に振るのを見て、男たちは唸り声を上げたまま無言でうつむいた。

 わたしだけが生き残ってしまった。


「あれは……」


 声がかすれた。


「あれはなに? ドラゴンなんて本当に……」


 親が聞き分けのない子どもに言い聞かせるための、空想の生き物だと思っていた。


『姫様。駄々を捏ねてばかりいるとドラゴンに連れていかれますよ』


 でも連れ去られたのは、やさしくていい子だったエルマーだ。


「俺も……。わたしも見たのは初めてです。西の果てにはドラゴンの住む地があると聞いたことはありますが、実際に見たのは……」


 四人の騎士の中で、一番ガタイのいい男が言った。この男は知っている。騎士団副団長の、確か名前はバルトサール。


「爺さんがそのまた爺さんから聞いた話ですが、東方を旅している時に一度だけ見たことがあると。酔っぱらいの戯言だと誰も信じる者はいなかったそうですが」

「だが、だとすればそんなドラゴンがなぜ我が国を襲ったのだ?」

「なにか目的があったのか?」

「……エルマー王女殿下が連れ去られた」


 フェルディナンドが奥歯を噛みしめながら答えた。


「なんと!」

「それは真なのか?!」

「コーネリアが……、王女殿下がご一緒だった」


 皆の視線が一斉にコーネリアに集まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る