07

 叫び出しそうになる悲鳴を両手で抑え、コーネリアは震える足で後退すると、またすぐに飛び出した。すぐ近くにはアルフォンスの部屋がある。

 お願い。お願いお願い!

 きっとどこかに隠れているはず。あの子はかくれんぼが得意だもの。


「コーネリア!」


 切羽詰まったフェルディナンドの声に、思わず立ち止まり振り返った。


「アルフォンス王子は部屋にはいらっしゃらない」


 いない? いないって――。


「じゃあ……」

「礼拝堂だ」


 礼拝堂!


「コーネリア! 待って! っくそ!」


 そう。今日はエルマーが嫁ぐ日で。気を利かせた乳母が、一足早くアルフォンスを礼拝堂に連れて行ったのかも知れない。礼拝堂なら隠れる場所はたくさんある。そんなわずかな望みを持った。

 ――どうしてすぐに気づかなかったんだろう。

 礼拝堂があるのは塔の下。部屋から見た塔は、半分以上がそっくり消えてなくなっていたのに……。

 酷い有様だった。エルマーの出立に合わせて、多くの者たちが寿ぎに集まっていただろう。まるでそれを知っていたかのように塔が破壊されていた。床を埋め尽くす巨大な石は、さながら墓石のように礼拝堂を埋め尽くしている。

 それなのに、なぜかそこにだけ目がいく。

 赤に染まった白金の巻き髪。サファイアブルーの袖から覗く白い手。それだけが石の下から見えるすべて。それだけが……それだけで充分だった。

 ふっと全身の力が抜けて、コーネリアは膝から崩れ落ちた。


「コーネリア!」


 フェルディナンドが慌てて駆け寄る。


「……お兄様たちは」

「残念だが……」

「そう……」


 そのときになって、コーネリアはようやく誰かの泣き声と呻き声に気づいた。緩慢に視線を巡らすと、下敷きになった者の家族や知り合いなのだろう、縋りつくように背を丸め泣き崩れる者。また、怪我人を助けている四人の騎士がいる。

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