06
「見ない方がいい」
フェルディナンドが頭を抱えようとした腕を「いいの」と押し返す。そこにはトマスの胴から下が落ちていたからだ。
トマス――。
やさしかったトマスを思い出し、熱いものが込み上げてきたが、今は感傷に浸っている場合じゃない。コーネリアは、痛いほどに唇を噛みしめた。
「そこは階段が壊れてる。こちらから行こう」
「待って。ナニーが……」
「コーネリア」
フェルディナンドが無言で顔を向けた先に視線を向けると、あったはずの建物が根こそぎ崩れていた。
そんな――。
叫び出しそうになる口を両手で塞いだ。
コーネリアが十五になり大人の女性として認められても、まだまだ手のかかる姫様だと言って隠居もせず、なにかと世話を焼いていた。コーネリアにとっては育ての母であり、家族同然の存在だったのだ。
「行こう」
痛ましい目を向けたフェルディナンドが先を促す。
まだだ。涙で目を曇らせてはいけない。この目でしっかりと皆の無事を確かめるのだから。
廊下を急いでいると、あちらこちらからパラパラと小石が崩れる音がする。
両親の部屋はコーネリアとエルマーの部屋のすぐ下にある。
階下に降り立ったエルマーは、ドアの前で折り重なるようにして倒れている衛士たちを見て、一瞬足をすくめた。最期まで護ろうとした王と王妃の部屋だ。
「お父様! お母様!」
「コーネリア!」
青ざめたコーネリアを、フェルディナンドが抱きかかえる。
嘘だ、嘘だ、嘘だ……!
そう思いながらも一目で惨状を理解してしまう。
父王は母妃に折り重なるようにして絶命していた。父王の背中のマントは獣の爪……間違いなくあのドラゴンによるものだろう、裂けて赤黒い血溜まりの中に白い骨が見えた。
天蓋付きの寝台も、母妃が美しい髪を結い上げていた鏡台も、なにもかもがめちゃくちゃに破壊され、二人は血の海の中に横たわっていた。
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