05

「コーネリア」


 駆け寄ったフェルディナンドに抱き寄せられながら、固く握りしめていた手の指を一本一本解かれ、ようやく自分が割れたガラスの破片を握りしめていたことに気づいた。

 フェルディナンドは床に転がっていた果実酒の栓を開けると「我慢して」と言うが早いかその手にドボドボとかけた。


「っ……!」


 ランベルトが部屋に散らばったドレスを裂いた布をフェルディナンドに手渡し、ぐるぐると手を巻かれる。その時になって、ようやくじんじんと手が痛み出した。


「エルマーが攫われた」

「っ。相手は?」

「……ドラゴン」


 フェルディナンドが息を呑み、ランベルトと視線を交差する。


「とにかく、きみが無事でよかった」


 そうだ。皆は――。

 コーネリアはフェルディナンドの腕を押し退けた。


「皆を捜しに行かなくちゃ」


 よろよろと立ち上がると、フェルディナンドに手首をつかまれた。

 その顔を見返すと、フェルディナンドも険しい顔でコーネリアを見つめた。

 引き結んだ唇はなにも語らない。だが、コーネリアはわかってしまった。


「嘘……」

「コーネリア。よく聞いて。陛下と王妃様は……」

「嘘よ!」


 コーネリアはフェルディナンドの手を思いっきり撥ね退けた。

 足を踏み出したところで、床に落ちた壁の石片につまづき、転びそうになった身体を支えられる。


「一緒に行こう」


 もつれそうになる足を必死で動かし、早く早くと気が急く。

 ランベルトが辺りを警戒するように先に立つ。

 フェルディナンドに支えられながら部屋を出たコーネリアは、余りの惨状に言葉を失くした。

 居室としている城の屋根は崩れ、通常なら見えるはずのない塔も半分以上が失われている。階段もところどころ崩壊し、あちらこちらに横たわっているのは衛士や城で働く者たちの変わり果てた姿だ。

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