04

 チャンスだ。ぎりっと睨みつけたまま、剣に手を伸ばす。

 柄に触れたと思った次の瞬間、コーネリアの身体は宙を飛び、したたかに窓枠にぶつかった。窓ガラスが砕け散り、そのまま床に倒れ伏す。あまりの痛さに声も出ない。


「コーネリア!」

「おっと。おまえには共にきてもらおうか。今日の土産だ」

「な……っ!」

「離して! 離しなさい!」

「エル……」


 だめだ。このままではエルマーが――。

 床についた手がなにかに触れた。ガラスだ。コーネリアは鋭い欠片を握りしめた。

 動け、わたしの足!


「やめておけ。おまえに俺は倒せん」

「っ……」


 エルマーを軽々と肩に担いだムサファーは口端を引き上げた。不敵な笑み。


「逃げて、コーネリア!」


 エルマー――!

 ムサファーが踵を返し走り出す寸前。

 コーネリアはムサファーの目が燃え上がるような赤に染まるのを見た。


「エルマー!」


 エルマーの白金の髪が流れる。細い腕がコーネリアに向かって伸ばされたその時。巨大ななにかが目の前を覆いつくした。

 台風の只中にいるような爆風に、たまらず目を瞑って床に這いつくばる。


「コーネリア!」


 大きな羽音がした。エルマーの声が一瞬にして遠ざかったのを、なぜと思う間もなくぴたりと風が止んだ。

 顔を上げたコーネリアが見たもの。それは――。

 ドラゴン……!

 真っ黒な翼。研ぎ澄まされた黒曜石のような鱗。その鋭い鉤爪には花嫁姿のエルマーがいる。信じられなかった。ドラゴンの姿を見るのも初めてならば、エルマーがドラゴンに攫われたという事実も。

 あの男は? 目を凝らすが男の姿はどこにもない。

 ドラゴンの翼がひと羽ばたきすると、あっという間に雲の中へと消えていった。


「コーネリア!」

「フェルディナンド」


 抜身の剣を持ったフェルディナンドとランベルトだった。


「エルマーは?!」

「エルマーは……」


 喉が詰まった。

 意志に反して、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。

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