02

 隣国とは言え、地平まで続く森を抜け、いくつもの大河を越えなければ辿り着けない。第一、やがて一国の王妃となる身だ。言うほど頻繁に会えないことは、エルマーもコーネリアもわかっている。

 外から人々の歓声が聞こえてきた。


「さあ、エルマー。迎えの馬車が来たようだわ。皆、あなたを祝福しているわ」


 コーネリアは薄く笑って、最後にもう一度エルマーを抱きしめた。

 と、その時。突風が窓を激しく揺すった。

 ぎくりと二人は身を硬くしたが、コーネリアはただの風に驚いた自分を恥じるように苦笑した。


「追い風よ、エルマー。行きましょう」


 不安な顔で窓の外を見やるエルマーの背中を促したコーネリアだったが、廊下から聞こえてくる声に眉をひそめた。人々の歓声もおかしい。


「ちょっと待ってて」


 なにかあった。

 瞬時に異様な空気を察知したコーネリアが、エルマーを制してドアを開けた瞬間、目の前をなにかが横切った。

 え――。

 大きな鉄の塊が、音を立てて転がる。公式な祝いの日に鎧を身に着けた衛士だ。だが、その姿には腰から下がない。兜の隙間から、なにが起きたのかわからないといった、大きく見開いた目がコーネリアを見ている。


「トマス!」


 信じられない光景が広がっていた。

 ぽっかりと空いた天井から見える青空。大きな石壁が今も崩れ落ち、廊下を見渡せば、衛士たちは手足をもぎ取られた姿で倒れている。あちこちから聞こえてくる悲鳴や怒号。コーネリアが歓声だと思っていたのは、人々の悲鳴だったのではないか。

 咄嗟にドアを閉め、鍵をかけた。


「……どうしたの?」

「逃げるわよ」

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