Ⅱ 厄災

01

 澄み渡った空の収穫月のある日。朝から天高く祈りの塔の鐘の音が響き渡り、フリーデン城の正門には国中の人々が集まっていた。

 人々の手には花やはだか麦を入れた籠があり、誰の顔にも笑顔が浮かんでいる。


「エルマー。支度はできた?」


 コーネリアはエルマーの部屋を覗き込むと、そこに佇む姿に思わずといった態で息を呑んだ。

 繊細な模様が金糸銀糸で縫い込まれた真っ白な絹のドレス。肩から流れ落ちるレース飾りは、遠く神々の山裾に降り積もった雪のよう。華奢な腰に結ばれた細い金の鎖。結い上げた髪には摘んだばかりの花々が飾られ、エルマーの清楚な美しさに彩を添えていた。


「なんてきれい……」

「コーネリア」


 嬉しそうに破顔したエルマーは、コーネリアの知るどんな表情よりも美しく輝いて見えた。

 持てる力を出し切った侍女たちも、喜びを隠しきれない表情のまま、コーネリアに軽く膝を折って礼をし、姉妹最後のひと時のために部屋を出て行った。

 侍女たちを見送ったコーネリアは、両手を広げたエルマーに自らも腕を広げて抱きついた。


「エルマー。おめでとう」

「ありがとう、コーネリア」


 今日はエルマーが隣国テルラーデへ嫁ぐ祝いの日だ。

 エルマーは十八。コーネリアもすっかりコタルディの似合う十六歳になっていた。

 テルラーダは古くからフリーデンの友好国として協力関係を続けてきた国だ。

 テルラーダ国のヨハンソン国王は、母妃テレサの叔父にあたり、嫡男ヘンリック・ヨハンソン王子は、エルマーの許婚であった。

 コーネリアも幾度かヘンリックと交流があるが、温厚実直な青年といった印象が強い。やや頭の固いところもあるが、やさしく穏やかなエルマーにお似合いの相手だと思う。


「寂しくなるわ」

「すぐお隣よ。いつでも遊びにきて頂戴」

「そんなこと言ったら、明日にも押しかけちゃうわよ」

「もちろん、歓迎するわ」


 ふふふ、と笑い合った笑顔の裏には、隠せない寂しさが滲んだ。

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