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「じゃあ、わたしが死ねって言ったら死ぬの?!」

「コーネリア」

「それがコーネリア様のお望みならば」

「ばっかじゃない!」


 コーネリアの怒声に驚いた衛士たちが駆けつけようとするのを、フェルディナンドが制する。


「わたしが! わたしがそんなこと言うとでも思ってるの!」


 そんなの、ランベルトなら絶対に言わない。


「こっち見なさいよ!」


 頭を垂れたままコーネリアを見ようともしないランベルトに腹が立った。

 コーネリアの命令にようやく顔を上げたランベルトは、叙任式に見た表情と同じだった。一切の感情が抜け落ちたような、まるで仮面のような顔。こちらを見据える黒瑪瑙の目には、先日のような動揺の色もない。

 コーネリアは、こめかみの傷跡がよく見えるように髪をかき上げた。


「これはわたしのせいなの! 絶対にランベルトのせいなんかじゃないんだから! 覚えておいて!」

「コーネリア!」


 踵を返したコーネリアは、思いっきり走った。

 自分を見上げたランベルトの目に傷跡が見えたかどうかはわからない。

 けれど、あの時の傷が残っているのは知っているはずだ。知っているからこそ狼狽したのだ。そして、ランベルトの心にも同じ傷跡を残した。

 目頭が熱くなった。泣いたりなんかしない。絶対に。

 ランベルトの前では――。

 ちょっとでも気を抜けば嗚咽が漏れそうになるのを必死で耐えながら走った。

 だから、いつの間にかその手から落ちた手巾に気づいたのは、夜着に着替えてからだった。


「なにか探しものですか、姫様」


 寝台の下を覗き込むコーネリアに、乳母が尋ねた。


「……いいの。なんでもない」


 もういい。

 あんなもの、作らなきゃよかった。ランベルトなら喜んでくれると思った。下手くそって笑いながらも、受け取ってくれると思っていた。

 全部、わたしの勝手な思い込みだった。

 ランベルトは、もう、わたしの知っているランベルトじゃない。

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