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「姫様、この間頼んでいたドレスができ上ってきましたよ。ナニーはもっと袖にレースがあった方がいいと思ったんですけどねえ。姫様?」

「……なんでもない。レースはすぐに引っかかるから嫌いなの」

「お転婆するからでございましょ。でもまあ、ナニーは少し安心しました。フェルディナンド様は次期領主様としてご活躍なさっておいでだし、ランベルト殿もそれはもう立派な騎士になられました。姫様も来年は十歳になられるんですからね。いつまでも仔犬のように遊んでばかりいられませんよ」


 ごらんなさいませ、と淡い勿忘草色のドレスを抱えた乳母が、上機嫌でドレスを広げて見せた。


「このドレスなら、コタルディにしてもきっとお似合いです」


 十歳になると丈の短い子どものドレスから、大人と同じ、身体の線に沿ったコタルディと呼ばれる丈の長いドレスになる。十一歳のエルマーは、胸元こそ開いていないがすでにコタルディを着ている。子どものドレスは、可能な限り再度職人が縫い直すのだ。コーネリアの場合、残念ながらほとんどのドレスは再生不可能なものばかりだ。乳母の言うように、もう三人で木に登ったり、川で遊んだりすることはないだろう。

 その幾重にも薄絹を重ねた春色のドレスを纏い、登城したフェルディナンドとランベルトの前に出たのは翌月のことだった。また同じように他人行儀な態度を取られたらどうしようと、考えただけで恐ろしくて、なかなか顔を出せずにいたのだ。

 大丈夫。これを渡すだけなんだから――。

 手巾を握りしめ、中庭の木の陰に隠れていたコーネリアは、ランベルトを伴って歩いてくるフェルディナンドの姿を見止めていっそう身を縮めた。だが、風になびく赤い髪にまでは気を配れなかった。


「コーネリア?」


 心臓が跳ね上がった。

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