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「ご覧になりました? ランベルト様のなんて凛々しいお姿」

「なんでも、剣の腕前はすでに騎士団でも一二を争うそうですわ」


 扇の陰で交わされる貴婦人たちの噂話は、木の葉が風にさざめくように、あっという間に城中を駆け巡った。

 叙任式の翌日から、フェルディナンドがランベルトと連れ立って歩く姿が見られるようになった。だが、どこか違和感を感じる。

 コーネリアは城の窓から見下ろしながら、首を捻った。

 また身長が伸びた? フェルディナンドはいつも通りだけど、ランベルトが騎士の制服を着ているせい?

 ううん。違う。ランベルトだ。

 フェルディナンドはにこやかに笑っているのに、ランベルトは笑っていない。

 会話はしているようなのに、ランベルトはにこりともしない。それどころか、まるで怒っているみたいに冷たい表情。

 ふと、フェルディナンドが立ち止まって顔を上げた。コーネリアを見ると、ふわりと微笑む。

 フェルディナンドの視線を追って、ランベルトの黒い目がコーネリアの視線とかち合った。

 驚いたように見開かれたその目は、コーネリアを見るとわずかにたじろいたが、すぐに胸に手を当てこうべを垂れる。騎士や衛士たちが位の高い者へ取る礼だ。

 どきりとした。

 胸の辺りがざわざわとして、喉がひゅっと萎む。

 ランベルトは正騎士になったのだから、制服を着るのも、王女である自分に礼を取るのも当たり前。当たり前なのに――。

 なにか大きな壁が、ランベルトとの間に立ちはだかったような気がして、コーネリアは慌てて身を隠した。

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