09

「その間、おまえはエルマーから刺繍を習いなさい」

「えぇっ!」


 思わず不満の声を上げると、エリアスが無言の圧力をかけてきた。

 絶望に襲われたコーネリアは、がくりと肩を落としながら父王の部屋を後にした。


「よかったわね、コーネリア」


 さっきからぶうっとほっぺたを膨らませたまま歩くコーネリアに、エルマーが明るく声をかけた。


「半分だけね」

「半分?」

「ランベルトが辞めさせられなかったのは嬉しいけど、刺繍だなんて酷すぎる」


 コーネリアは刺繍が大の苦手だ。

 糸はすぐにこんがらかるし、下絵の通りに針を刺しても、真っ直ぐになんて縫えない。なにより、じっと座ったままでいるなんて耐えられない。

 エルマーもお母様も、長い時間よくあんなことができるものだと不思議でならない。


「だけど、どのみち傷が治るまでは外に出られないわ。歴史の本を読むよりはいいでしょう?」

「それはそうだけど……」


 歴史の勉強は刺繍よりも嫌いだ。歴史を教える司教はなかなかの堅物で、欠伸のひとつでも漏らそうものなら、眠気が飛ぶようにと、歴史書を声を出して読まされる。


「それなら、ランベルトに刺繍を入れた手巾を贈ったらどうかしら」

「えっ」

「この前の家鴨の刺繍は可愛くできたもの。コーネリアの傷が治って、手巾が仕上がる頃には、きっとランベルトも戻ってくるわ」


 ランベルトに贈りもの――。そんなこと、思いもつかなかった。


「ね。いいアイディアだと思わない?」

「……わたしにできる?」

「もちろんよ。ちゃんとわたしが教えてあげる」


 コーネリアの表情にようやく笑顔が戻った。

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