08

 親と子。互いの視線がぶつかり合い、やがてエリアスは口髭の下でふっと息だけで笑った。微かに髭の先が揺れたが、気づいたのはエルマーだけだ。


「罰はよい。おまえの罰は、その傷で充分だろう。ランベルトの罰だが……。剣を交える前に、きちんと調べなかったのはあれの責任だ」

「でも……!」


 エリアスは片手を上げ、口を挟んだコーネリアを制した。


「騎士になるには、いついかなる時にも細心の注意を払わねばならぬ。鍛錬だけではいかん。周りの状況を見定め、自分がなにをすべきか、どう振舞うべきかを知ることで、心も自ずと鍛えられるのだ。ランベルトにはまだそれがわかっていなかった。だが……」


 エリアスは言葉を区切ると、立ち上がって折れた剣をコーネリアに手渡した。


「誰がランベルトを辞めさせると申したのだ? まあ、ディーツェルはそう願い出たがな。今回のことはおまえにも非がある。ランベルトを辞めさせるなら、おまえも王家から追放せねば同等とは言えぬ。そう申したら目を白黒させていたな」


 くっくと笑うエリアスに、コーネリアはぱあっと表情を変えた。


「じゃあ……」

「春がくるまでだ。ランベルトは春になるまで、城に足を踏み入れるのを禁ずる。その間ディーツェルは、今一度ランベルトを鍛え直すことができるだろうからな」


 春まで。それはコーネリアにとって永遠とも思える長さに思えたが、辞めさせられるよりかはずっといい。


「ありがとう、お父様!」


 片膝を軽く折って礼を取ったコーネリアに、エリアスは手を広げて腕の中へと誘う。

 コーネリアは求められるまま、父王の頬にキスをし、続いてエルマーもそれに倣う。

 すっかり機嫌を直し、踵を返そうとしたコーネリアに「ああ、それから」とエリアスが引き留めた。

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