07

 エルマーはコーネリアにとって憧れの存在だ。誰よりも美しくて、聡明で、頼りがいがある。いつだってコーネリアの味方をしてくれるし、時にはいたずらにもつき合ってくれる。誰かがエルマーを褒めるのを聞くと、自分のことのように誇らしかった。

 二人が父王の部屋に通されてくると、書類に目を通していたエリアスは太い片眉を引き上げた。頭に包帯を巻いたコーネリアの姿を見ただけで、おおよその見当はついたのだろう。「予想より早かったな」と呟いた。


「お父様! ランベルトは悪くないの!」


 勢い込んで話し出したコーネリアを遮ると、エリアスは緩く手をそよがせた。傍にいた秘書長官は軽く頭を下げると、無言で部屋を出て行った。


「お父様! ランベルトは悪くないの!」


 それを確認したコーネリアは、もう一度言った。


「怪我をしたのはわたしのせいなの! わたしが折れそうな剣をいつまでも使ってたから……。だからランベルトを辞めさせないで!」

「剣というのはこれのことかな?」


 そう言って、エリアスは机に置いてあった木の棒を示した。

 真っ二つに折れた剣。間違いない。


「そう、それです!」

「ふむ」


 エリアスは蓄えた口髭を撫でながら、鷹揚にうなづいた。


「だいぶ細くなっているな。これでは鉄の剣を受け止めることはできまい。それに気づかぬおまえではあるまい?」

「それは……、はい」


 優しい目の奥がきらりと光った父王に、コーネリアの声から急に勇ましさが消える。


「練習用とは言え、このような剣を使えばどうなるか……。その額の傷はすべてを物語っておるな」

「だから誰のせいにするつもりもありません。全部自分が悪いってわかってるから」

「そうだな。それでランベルトの弁明に来たというわけか」

「はい」


 コーネリアは真っ直ぐに父王を見た。

 揺らぐことのない強い視線は、真に正しいと思うことは曲げてはならない、との父王の教えの賜物だ。


「罰はわたしが受けます。だから、ランベルトから騎士になる夢を奪わないでください」

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