06
その後ろには、ようやく追いついた乳母が、ふうふうと肩で息をしている。
「助けて、エルマー! お父様のところに行きたいのに、トマスが放してくれないの!」
「コーネリア様はお怪我をなさってるんですから、大人しく部屋に戻ってください。陛下にはトマスからお伝えいたしますから」
「そんなの待ってたら手遅れになるの!」
「コーネリア。まずはトマスの髭を放しなさい」
エルマーの、静かだが凛とした声はよく通る。
自分の手がトマスと呼んだ衛士の髭をつかんでいることに気づいたコーネリアがぱっと手を放すと、トマスはほっとしたようにふーっと息を吐いた。
エルマーに小さくうなづかれたトマスが、コーネリアをそっと下ろす。さっきまで宙を蹴っていた足がようやく床に着いた。
「それで、怪我の具合は大丈夫なの?」
エルマーが話し始めると、衛士たちはそれぞれ自分の持ち場へと戻っていった。
「うん。もう全然平気! でもランベルトが大変なの!」
「ランベルト?」
首をかしげたエルマーに、コーネリアは今しがた乳母から聞いた話をした。
「でもあれは事故なの! 剣が細くなっていたのは気づいてた。でもお父様に言ったらまた反対されるだろうし、だから黙ってた。ランベルトのせいじゃないの!」
コーネリアの話を聞いたエルマーは「わかったわ」とうなづいた。
「一緒にお父様のところに行きましょう」
「ナニーも参りますよ。万一、姫様が倒れたりなさったら大変ですからね」
それだけは絶対に譲らないとばかりに腰に手を当てた乳母は邪魔だったが、どうせ途中でついてこられなくなる。コーネリアはエルマーと手を繋ぐと、石の回廊を軽やかに走り出した。
「ひ、姫様! エルマー様も、お待ちくださいまし!」
さっそく遠く引き離された乳母の声が石壁に反響して響き渡る。
コーネリアとエルマーは、顔を見合わせると、ふふふと笑った。
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