04
痛い。
額に触れた手を見ると、真っ赤に染まっている。血だ。
それを見た途端、くらりとして腰が抜けた。
慌てて駆け寄ったフェルディナンドが、蒼白な顔で抱き寄せる。
「ああ、コーネリア。しっかりして。ランベルト! 侍医を呼べ!」
フェルディナンドが怒鳴った。
その場にぼんやりと立ち竦んでいたランベルトは、フェルディナンドの声に弾かれたように我に返ると、城へ向かって身をひるがえした。
それからはまさしく蜂の巣を突いたような騒ぎになり、衛士に抱えられたコーネリアは、今にも倒れそうな乳母を見て大丈夫かなと心配になったが、そこからぷつりと記憶が途切れた。
コーネリアの傷はこめかみの少し上。折れた木の剣が刺さったものだった。
入り込んだ細かい木くずを取り、糸で縫わなければならなかったが、眠り薬で眠っているうちに治療が終わっていたので、しばらく外へ出るのを禁止するとの父王の言いつけの方がショックだった。
「いつかこんなことになるんじゃないかって思ってましたよ。なんて恐ろしい! もうちょっとずれていたら、そのきれいな目が見えなくなっていたかも知れないんですから!」
乳母は丸めた洗濯物を抱えながら、ぷんぷんと怒っている。
「ですからナニーはいつも申しておりましたでしょう。剣を振り回すなんて姫様のすることじゃございません。もう二度とナニーを心配させないでくださいまし」
また始まった、とコーネリアは唇を突き出したかったが、傷が痛むので布団を引き寄せるだけで我慢した。
「まったく、見習いとは言え、仮にも騎士団員のランベルト殿が、大事な姫様に怪我を負わせるなんてとんでもないことです。厳重な処罰はまぬかれ得ないでしょうし、フェルディナンド様付きの守護騎士は別の者になるに違いありません」
「えっ」とコーネリアは跳ね起きた。
「それ、本当?」
コーネリアは、フェルディナンドの背後で呆然と佇むランベルトの顔を思い出した。目を見開き、なにが起きたのかわからないといった表情で固まっていた。
「そりゃあそうでしょうとも。先ほどディーツェル様が陛下にお目通りを願っておりましたから、きっとそのお話だと思いますよ」
「だめよ! そんなのだめ!」
「姫様!」
コーネリアは寝間着姿のまま、裸足で寝台から飛び出した。
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