02
美しく刈り取られた緑の中庭に出ると、剣のぶつかり合う音が聞こえてきた。
二人の少年が、白い花を咲かせる木の下で剣を合わせていた。
春の光のような淡い金色の髪の少年と、まるで対照的な黒髪の少年。フェルディナンドとランベルト。この二人こそが、コーネリアの遊び相手だ。
重い鉄同士が噛み合い、火花が散る。刃を潰した剣とは言え、ぶつかれば大怪我をする。二人の剣は互角に見えるが、やはり騎士見習であるランベルトが優勢だ。
「まだまだ!」
フェルディナンドがランベルトの剣を止めて押し返す。すかさず突き出した剣は、ランベルトに跳ね返され、回転しながら宙を舞った。
「くそっ。もう少しだったのに」
「脇が甘いんだ。もっと締めてこないから動きも鈍る」
二人とも弾んだ息のまま、笑顔で軽く手を握り合う。
「コーネリア!」
コーネリアに気づいたフェルディナンドが近づいてくる。
「どうやら、さっき聞こえた悲鳴は幻聴じゃなかったようだね。気の毒に、乳母の寿命はまた縮んだと見える」
フェルディナンド・バウムガルトは、父王の親友であり右腕でもあるバウムガルト公爵の嫡男で、コーネリアの許婚だ。コーネリアが産まれてすぐに、父王と公爵が互いの友情を誓い合い交わされた約束らしい。
とは言え、フェルディナンドはコーネリアの七つ上で、産まれてからずっと共に成長してきたため、兄のような存在だった。
「パンみたいな身体はちっとも縮まないのに」
「それは本人の前で言っちゃだめだよ」
苦笑しながらフェルディナンドは眉根を下げた。
森の中にあるヘインズ湖みたいな目で見下ろされたコーネリアは、ついと顔を背けた。
フェルディナンドの甘い顔立ちは、国中の若い女性を虜にしているのだと乳母が言っていた。
いつの頃からだろう。フェルディナンドとランベルトがにょきにょきと大きくなったのは。
自分もすぐに追いつくものだと思っていたのに、コーネリアの背丈は一向に伸びる気配がない。フェルディナンドに見下ろされ、頭をぽんぽんと撫でられようものなら、コーネリアの不満は怒髪天を衝く。
「ランベルト! 次はわたしの番よ! 今日こそ負けないんだから!」
コーネリアは木の剣を構えた。
「今日はなにを賭ける? 小さなお姫様」
ランベルト・ディーツェルはにやりと笑うと、肩口端を引き上げた。
「その呼び方はやめてって言ってるでしょう! もしわたしが負けたら、午後のお菓子をあげるわ。ランベルトは? わたしになにをくれるの?」
「コーネリア。きみももう……」
コーネリアは片手を突き出してフェルディナンドの言葉を遮った。
「ふーん。そうだな」
ランベルトはやや逡巡するように首をかしげると「いいだろう」と、不敵な笑みを浮かべた。
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