01
四方を果てしなく続く森に囲まれた国、フリーデン。朱い煉瓦の屋根が建ち並び、石畳の路を羊たちが横切る。
初夏を迎えたフリーデンの大路は、商人たちの荷馬車で賑わい、この国では珍しい果実や干した魚、金物などが威勢のいい声と共に売り買いされていた。
冬はすっぽりと雪に閉ざされるフリーデンでは、冬の寒さにも強い小麦が育つため、毛織物と共に国の大切な農産物となっている。商人たちは冬にはその小麦を買いつけ、それを近隣諸国で売り、やがてまたこの場所へと戻ってくるのだ。
街の広場を抜け、青い柳の葉が風に揺れる小川を渡り、ゆるやかな勾配を上っていくとフリーデン城がある。この地で採れる硬いベージュ色の石を積み上げた城壁は、長い年月と共に茶褐色へと変色して、落ち着いた風情を見せている。
「姫様! お待ちください、姫様! またそのようなお姿で!」
中庭に続く回廊を除いては――。
だって剣の稽古をするんだもの。ドレスなんか着てたらできっこないわ。
服は街へ出た時に古着を買った。剣はコーネリアがあまりにもしつこく強請るので、木製の練習用のものならと父王に許してもらった。毎日のように振り回している剣もだいぶ削れて細くなり、最初は重くて長く持っていることもできなかったが、今では身軽に戦うことができるようになった。
コーネリアは茜色の髪をなびかせながら、転がるように階段を駆けていった。
コーネリア・フリーデン・クラウゼは、国王エリアス・フリーデン・クラウゼと妃テレサの次女である。父王譲りの赤毛に、母譲りの翠玉色の瞳。次期国王となる立派な兄ヘルマンと、剣技を磨くより図書室にこもってばかりいる次男のダニエル、フリーデン国の白百合と称される美しい姉エルマー、まだ三つの天使のように可愛らしい末弟アルフォンスの中で、伸び伸びと育った……伸び伸びと育ちすぎたのかも知れない。幼い頃から勉強より木登りが、行儀作法より追いかけっこが好きなお転婆だった。
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