亡国の姫と竜の王

太秦あを

Ⅰ フリーデンの姫君

 序

 どうしてこんなことになったのだろう。

 凍てつく寒さに、コーネリアは首をすくめた。

 髪を濡らす銀色の雨は、鎧の隙間から入り込んで、容赦なく体温を奪っていく。

 もう動けない。肩も足も重く、右手に張りついた剣を振り上げることさえできない。

 その身を引きずるようにして、岩場に腰を下ろした。

 すぐ足元には折れた旗が落ちていた。剣を抱いた二頭の獅子が蛇を踏みつけている、西の大国リドルフスクの紋章。黒く染みついた汚れは、泥なのか血なのかわからない。

 顔を上げて辺りを見渡せば、おびただしい死体の山が築かれている。むっとするような血の臭い。およそ三十万の兵をもってしても敵わなかった、たった一日で終わった戦い。

 なぜ、と呟いた言葉は、白い息となり雨に打ち消された。

 応えてくれる声はない。

 空を仰げば、重く垂れこめた雲の中で、鋼色の翼を広げるドラゴンの姿がある。

 雨が顔を叩く。きっとすぐにわたしも路傍の塵となるだろう。

 長い旅だった。

 過ぎ去った幾千の昼と夜を思いながら、コーネリアは瞼を閉じた。

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