第24話 スケルトン、追悼する。

ここは、領主の屋敷内の外れの一角・・・斎場も兼ねている様だ。


お亡くなりになった親族、関係者が集まり、泣いて嗚咽おえつを上げている者もいる・・・。


あぁ・・・切ないな。


宗教はどうであれ、どの様な形であれ、善人者の葬儀は見たくない・・・慣れる事が無い・・・何故、善人が寿命を全うできず理不尽な死を迎えなくてはならないのか?


何故、災いは無くならないだ? その為に己を犠牲にして力を手に入れているのに・・・心底思う、この世は無情だと。 


ナッシュはアンデットになっても、この思いは変わらない・・・が、諦める気も無い・・・『諦めたら最後、真の無情に変わる・・・変えてなるものか!』と意志だけは捻じ曲げない。


色々なモノを捨てた・・・、今、俺はここにいるのだ・・・。


ゆえに、・・・仕方が無い事だ。




俺は・・・上手い言葉を言って労うのが下手だ・・・仕方が無い事かもしれん・・・でも許されるのか?


ナッシュは隊長に一言「すまない・・・俺の実力不足だった」と言った。


「お前の気持ちは分かっている・・・気にするな・・・全力尽くしたんだろ? 葬式の事は俺に任せろ・・・俺たちの真似をすればいい。」


隊長は、そう言いいながら、マナエーテルを俺のコップにつぎ足す・・・。


そして隊長は語りだす・・・


「皆の為に努力し亡くなった者に感謝と敬意を! 『献杯けんぱい』!」


そう言うと、隊長は酒の入ったコップを上に掲げた・・・。


皆も同じ様に、無言で酒の入ったコップを掲げる・・・。


やり方を知らない俺は、同じ様に無言でコップを掲げた・・・。


隊長が、全員コップを掲げるのを見ると、無言で飲み始めた・・・それを見た他の者も同じ様に無言で酒を飲む・・・静かに飲むチビチビと。


酒のつまみは、皿にちょこんと乗った塩のみ・・・


どうやら、ここでは亡くなった者はこの様な形で、はいを捧げて故人に敬う気持ちを表すのだろう・・・。


が変わると、しな・・・周りに合わせて動くのが無難だろう。




誰も何も語らない・・・。


ただ静かにチビチビ飲む者・・・


悲しみ悔しさのあまり、嗚咽を出す者・・・


こぶしを握り締め涙に耐えている者・・・



ナッシュも悲しみはしたが、それ以上に本当に困惑した・・・正直、今まで、まともな葬式なんてした事が無い。


彼は、当時思い出す・・・あの暗黒時代を。


故人をけなす事があっても、いたむ事は無い・・・幼馴染も仲間も同じ、やらなきゃヤラレル、殺される騙される奴が悪いと言う世の中だった。


母の葬式すら、まともにやった事も無い・・・穴を掘り、埋めて目印となる木の棒を刺す・・・ただ、それだけだ・・・だれも見向きもしない・・・ナッシュ一人、黙々と墓標を建てた・・・この報われぬ世に憎しみを持ちながら・・・。


『憎い!憎い!憎い!全てが憎い! 無力な己さえも!!! 無力は悪だ!!!』 


そして、叫ぶ・・・「力を・・・理不尽に狂った世の中に押しつ潰されぬ力を!!!この理不尽な世の中に断罪を!!!」と・・・。


その後の俺はモンスターや悪人を殺し続けた・・・母を亡くした後は・・・ひたすら殺す側の者に回っていた・・・当時から自分の周り以外はクズやモンスターばかり・・・「貴様らを滅する為なら、喜んでそれ以上の獣となろう!狂った獣にな!!!」と叫びながら悪人をモンスターを狩った、殺した、そして喰った・・・。


他の善人はどうなっているかなど知らん・・・俺は害悪を亡ぼすだけの獣に成り下がる事を選んだ・・・。


それが、母の死んた時から始まった十代の頃の話だ・・・。


その頃から毎日休まず戦い続け、10年経った時には、人も悪魔も喰らう『狂乱のナッシュ』と呼ばれる様になった。


それからは、お金を稼ぐ・・・より強い凶器を求め、より悪い奴の断末魔の声を求めて・・・。


その頃には、彼は『善』の心は無い・・・代わりに有るのは『狂気』だった。


ナッシュは思う・・・ダンジョンマスターを討伐してから、心も変異しているのではないかと。


残念ながら、ここに来るまで母以上に良心がある者は皆無だった事もあるが・・・。


しかし、それにしても心が変わり過ぎではないのか、気まぐれでなかったのか?


それとも、これが元々の自分だったのか?


それ故、追悼すると言う気持ちにも、ナッシュは困惑したのだ・・・。


・・・俺は間違っていたのか、生き方を? 何が正しいのだ? 何が間違いなのだ? 


名も知らぬ者の為に命を懸けるか・・・本当に気まぐれだったが?


俺は、ここにいる者とは違う・・・。


スケルトン以前に、何か根本的なものが違う様な気がする・・・。


彼は、ふと思う・・・。


『俺は何者だ・・・本当にナッシュなのか?』と。

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